AI概要
【事案の概要】 名古屋市営バスの運転士であった被災者(当時37歳)の両親である原告らが、被災者は交通局の過重な労働環境下で勤務中、短期間のうちに強い心理的負荷のかかる3件の出来事(添乗指導における「葬式の司会のようなしゃべり方」との指摘、乗客からの苦情に対する一連の指導、車内転倒事故の当事者としての扱い)に遭遇したことにより精神障害を発病し、平成19年6月13日に焼身自殺を図り翌日死亡したと主張して、被告(名古屋市)に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案である。被災者の時間外労働時間は月平均約63時間に及び、36協定の上限を超える恒常的な長時間労働の状態にあった。 【争点】 (1) 被告の責任原因(交通局における勤務と本件自殺との因果関係、国家賠償法上の違法性及び予見可能性)、(2) 損害の発生及びその額、(3) 過失相殺の可否。特に、本件転倒事故が被災者の運転するバスで発生したものか否か、交通局の事故調査の適切性、及び一連の出来事による心理的負荷の強度が主要な争点となった。 【判旨】 裁判所は、被災者が恒常的な長時間労働により心理的負荷に対する耐性が低下していた状況下で、約4か月の間に添乗指導・苦情対応・転倒事故対応という3つの心理的負荷となる出来事に立て続けに遭遇し、これらの心理的負荷は客観的にみて精神障害を発病させるに足りる強度であったと認定した。特に、BDCSデータとの矛盾や目撃者供述の信用性の問題から、転倒事故が被災者運転バスで起きたと断定することはできないにもかかわらず、交通局が対外的な事態の収拾を急ぐあまり拙速に被災者を事故当事者と特定し、直ちに警察に出頭させた過程には相応の問題があったとした。被告は、被災者に心理的負荷が蓄積していることを認識でき、本件転倒事故の当事者として扱うことで精神障害を発病させるに足りる心理的負荷が生じることを予見可能であったとして、十分な調査を行うべき注意義務に違反したと判断した。過失相殺は否定し、逸失利益約4495万円(生活費控除50%)、死亡慰謝料及び固有慰謝料合計2500万円等を認め、損益相殺後、原告A1に3152万0474円、原告A2に3227万0474円の支払を命じた。