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【事案の概要】 原告(ヘルシン ヘルスケア ソシエテ アノニム)は、「パロノセトロン液状医薬製剤」に関する特許(特許第5551658号)を有していたところ、被告(ニプロ株式会社)が特許無効審判を請求し、特許庁は全請求項について特許を無効とする審決をした。原告はこの審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に提訴した。本件特許の各請求項は、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む溶液について「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する」こと(24ケ月要件)を発明特定事項に含むものであり、この24ケ月要件は出願審査中の手続補正により追加されたものである。 【争点】 本件の主要な争点は、24ケ月要件について、①サポート要件(特許法36条6項1号)を充足するか、②実施可能要件(同条4項1号)を充足するかである。原告は、明細書の実施例4・5が「発明の要約」欄の「室温で24ケ月を超える期間、保存安定的」との記載と不離一体の関係にあること、安定性試験は技術常識の範囲内で容易に行えること、出願前に得ていた実験結果(甲36)が明細書の記載を裏付けることなどを主張した。被告は、明細書には24ケ月の貯蔵安定性を具体的に裏付ける記載がなく、後出しの実験データで明細書の不備を補うことは許されないと反論した。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却し、審決を維持した。裁判所は、本件明細書にはpH・賦形剤・マンニトール・キレート剤の濃度調整により安定性が向上する旨の記載はあるものの、どのような作用・機序があるのか、どの程度の安定性向上が見込めるのかの記載がなく、具体的な医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されているとはいえないと判断した。実施例6・7についても、安定性が確認された期間は最長16日間にすぎず、技術常識である安定性データの外挿ガイドラインに照らしても24ケ月の貯蔵安定性の根拠とはなり得ないとした。原告が提出した出願後の実験データ(甲36・甲33)については、明細書に24ケ月の貯蔵安定性の試験方法・条件が一切記載されていない以上、後出しの実験データで明細書の不備を補うことは許されないとした。先願主義下の時間的制約についても、合理的な期待が得られる程度にも達しない記載ではサポート要件を肯定できないとして、サポート要件非充足を認め、実施可能要件について判断するまでもなく審決の結論に誤りはないと結論づけた。