AI概要
【事案の概要】 国立大学法人A大学医学系研究科の博士課程に入学し、満期退学後は客員研究員となったXが、指導教員である同科講師Y2から、いわゆるアカデミックハラスメントを含む不適切な指導等を受けたと主張した事案である。Xは、Y2が研究に関するメールでの質問に適切に回答しなかったこと、再現性のない実験を長期間続けさせたこと、論文の共著者からXを一方的に除外したこと、カンファレンスへの出席を強要したこと、推薦状の作成を拒否したこと、実験結果と異なる博士論文の作成を強要したこと等を挙げ、Y2に対しては不法行為に基づき、国立大学法人Y1に対しては国家賠償法1条1項又は使用者責任に基づき、連帯して損害金652万5640円(学費相当額214万円余、慰謝料300万円、弁護士費用51万円余、再現実験費用86万円余)及び遅延損害金の支払を求めた。 【争点】 1. Y2のXに対する各行為がアカデミックハラスメントとして不法行為上違法と評価されるか 2. Y1が国家賠償法1条1項に基づく責任を負うか 3. Y1が国家賠償法上の責任を負う場合にY2個人も不法行為責任を負うか 4. 損害の内容及び額 【判旨】 裁判所は、教員の学生に対する言動が不法行為法上違法か否かは、両当事者の立場及びその優劣の程度、行為の目的や動機経緯、職務権限等の濫用の有無、方法及び程度等の諸事情を考慮し、研究教育上の指導として合理的な範囲を超えて社会的相当性を欠く行為といえるかにより判断すべきとの規範を示した。 その上で、メールでの質問への対応については、一部にXに不快感を抱かせる措辞はあるものの、全体として指導教員の教育上許容される範囲内であり、Xに具体的な権利利益の侵害は生じていないとして違法性を否定した。カンファレンスへの出席要求、推薦状の不作成、実験結果と異なる論文作成の強要についても、いずれも違法とは認められないと判断した。 他方、本件論文の共著者からのX除外については、草稿段階でXを含む11名が共著者とされていたのに、最終稿でXのみが除外され、グループの他のメンバー全員が共著者とされた点を重視した。裁判所は、医学雑誌編集者国際委員会のオーサーシップに関するガイドラインに照らしても、最終稿にXの実験データが相当数使用されている以上Xを共著者とするのが相当であり、Y2の判断は相当性に欠けるとした。そして、Y2が指導教員として優位的な立場にありながらXの立場に配慮することなく、研究者として重要な共著者の地位を一方的に奪ったことは、指導としての合理的な範囲を超え社会的相当性を逸脱した違法行為に該当すると認定した。 国立大学法人Y1は国家賠償法1条1項の公共団体に該当し、Y2の行為についてY1が賠償責任を負うとした上で、Y2個人は同法の法理により損害賠償責任を負わないとした。損害額については、慰謝料10万円及び弁護士費用1万円の合計11万円を認容し、学費相当額及び再現実験費用は共著者除外との因果関係がないとして否定した。