損害賠償請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 介護老人保健施設に入所していたD(死亡当時80歳)の相続人である原告ら(妻及び子2名)が、Dは同施設の職員らの注意義務違反により食物を誤嚥して窒息死したと主張し、被告医療法人に対し、使用者責任又は入所利用契約上の債務不履行に基づき、合計約2798万円の損害賠償を求めた事案である。Dは2型糖尿病、高血圧症及び中等度ないし高度のアルツハイマー型認知症を有し、要介護4と認定されていた。誤嚥性肺炎の既往もあり、著しい摂食・嚥下機能障害が認められていた。死亡当日、夕食を完食して約10分後に意識喪失状態で発見され、搬送先の病院で「気道内異物による窒息」と診断されて死亡が確認された。 【争点】 (1) Dの死因は誤嚥による窒息か 原告らは、Dが不顕性誤嚥を起こしたか、微細な防護反射を職員が見逃したと主張した。被告は、食事中も食後も窒息の典型的症状(激しいむせ、チアノーゼ、痙攣等)がなく、Dの死因は2型糖尿病等を背景とする無痛性心筋梗塞による急性心不全であると反論した。 (2) 死因が誤嚥による窒息であるとした場合の職員の注意義務違反の有無 原告らは、食事中の見守り・介助義務、食後の口腔内確認義務、頸部後屈の防止義務、誤嚥時の即時対応義務への違反を主張した。 【判旨】 請求棄却。裁判所は、Dの死因が食物の誤嚥による窒息であると認めるに足りる証拠がないと判断した。 まず食事中の誤嚥について、1食あたり480キロカロリーの全粥等であり5分間で7割を摂取しても危険な速度とは一概にいえず、食事中にむせ込みや呼吸困難等の異変は確認されていないとした。次に完食後の誤嚥について、Dは死亡3日前の食事観察でも後半にむせることが確認されており気道の防護反射機能は一定程度保たれていたこと、急性窒息の症状であるチアノーゼや痙攣が高齢者・認知症患者に生じないことを示す知見もないことから、窒息の典型的症状がいずれも認められないことはDが窒息を起こしていないことを相当程度推認させるとした。さらに、心臓マッサージにより胃内容物が逆流して気道内に混入した可能性も否定できないとし、死亡時画像診断の結果から直ちに誤嚥窒息とは認められないとした。急性心筋梗塞の可能性についても、糖尿病による高リスク、無痛性心筋梗塞の存在、血液検査時期の問題等から否定できないとした。以上から、死因の立証が不十分であるとして、注意義務違反の判断に立ち入ることなく、原告らの請求をいずれも棄却した。