再審開始決定に対する即時抗告の決定に対する特別抗告事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30し332
- 事件名
- 再審開始決定に対する即時抗告の決定に対する特別抗告事件
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 裁判年月日
- 2020年12月22日
- 裁判種別・結果
- 決定・その他
- 裁判官
- 林道晴、戸倉三郎、林景一、宮崎裕子、宇賀克也
- 原審裁判所
- 東京高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 昭和41年、静岡県清水市のみそ製造販売会社専務宅に侵入し、同人及びその家族4名を殺害して金員を強取し、放火した強盗殺人等被告事件(いわゆる袴田事件)の第2次再審請求に関する特別抗告事件である。確定判決は、犯行後に同社みそ工場の1号タンク底部から発見された5点の衣類をAの犯行着衣と認定し、犯人性認定の最も中心的な証拠としていた。再審請求審(原々審)は、5点の衣類から採取した試料のDNA型鑑定(B鑑定)が白半袖シャツの血液のDNA型がAと一致しないとしたこと、及びみそ漬け実験報告書が1年以上みそ漬けされた血痕の赤みが消失することを示したことを新証拠として再審開始決定をしたが、原審(東京高裁)はこれを取り消した。 【争点】 B教授のDNA型鑑定(B鑑定)及びみそ漬け実験報告書が、刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるか。具体的には、(1)40年以上常温保存され劣化した試料からのDNA型鑑定の信用性、(2)5点の衣類に付着した血痕が1年以上みそ漬けされたものとして赤みが残っていることの不自然性の有無が争われた。 【判旨】 最高裁は原決定を取り消し、東京高裁に差し戻した。B鑑定については、5点の衣類及び被害者着衣が40年以上常温で保存され、多数の者に触れられる機会があったこと、血液をみそ漬けにするとDNAの分解が進むとの実験結果等を考慮すると、血液由来のDNAが残存しているとしても極めて微量でかつ変性・劣化している可能性が高く、外来DNAに汚染されている可能性も相当程度あるとした。B鑑定とC鑑定のアリル検出状況からも検査の不安定性は明らかであり、検出されたアリルが血液由来であると確定することはできず、個人識別のための証拠価値は認められないとして、原決定の結論を是認した。他方、みそ漬け実験報告書については、原審がメイラード反応(みそ中の糖と血液中のたんぱく質の非酵素的褐変反応)の影響を適切に評価せず、みその色のみを根拠にメイラード反応がさほど進行していなかったと推論した点に審理不尽の違法があるとした。本件の証拠関係及び審理経過に照らし、この違法が決定に影響を及ぼすことは明らかであり、原決定を取り消さなければ著しく正義に反するとして差戻しを命じた。 【補足意見】 戸倉裁判官は、科学的証拠の信用性評価について、専門家の間で確立した見解に基づくべきであり、裁判所が対立する専門的意見の当否に踏み込むことの困難性を指摘した。宮崎裁判官は、B鑑定とC鑑定のチャート図の著しい相違が試料の劣化に起因する可能性が極めて高いことを指摘し、メイラード反応については化学的知見による理論的推認など実証実験以外の方法での確認を検討すべきとした。林景一・宇賀裁判官の反対意見は、B鑑定及びみそ漬け実験報告書はいずれも再審開始すべき新証拠に当たるとし、差戻しではなく検察官の即時抗告を棄却して再審を開始すべきであるとした。