AI概要
【事案の概要】 本件は、孫娘(A子)に対する強制わいせつ・強姦の罪で起訴され、平成21年5月に懲役12年の実刑判決を受けた原告X1が、その後の再審請求により平成27年10月に無罪判決を受け確定したことを受け、原告X1とその妻である原告X2が、警察官による捜査、検察官による公訴提起・公訴維持・勾留継続、裁判官による判決行為がいずれも違法であって共同不法行為にあたると主張し、国及び大阪府に対して国家賠償法1条1項に基づき合計約1億4000万円の損害賠償を求めた事件である。加えて原告X1は、再審請求審で裁判所から証拠一覧表の交付を命じられた検察官がこれを拒否したのは、証拠一覧表交付請求権の侵害に当たるとして、別途300万円の慰謝料も請求した。 原告X1が有罪判決を受けた本件刑事事件では、被害者とされた養孫娘A子の供述が中核的証拠であったが、実際にはA子が強姦被害を受けた事実はなく、告訴に先立ってA子を受診させた産婦人科のカルテには「処女膜は破れていない」との記載があった。このカルテは捜査機関が収集しておらず、逆に検察官指示のもとで作成された別のクリニックの診断書には「処女膜裂傷」と記載され、有罪立証の一資料となっていた。A子は本件控訴審判決後にかつての証言が虚偽であった旨を告白し、これが再審開始・無罪判決につながった経緯がある。原告X1は約6年にわたり身体拘束を受け、刑事補償として2826万円余を受領している。 【争点】 主な争点は、(1)警察官による捜査の違法性、(2)検察官による公訴提起の違法性、(3)検察官による公訴維持・勾留継続の違法性、(4)裁判官による判決行為の違法性、(5)再審請求審における検察官の証拠一覧表交付拒否行為の違法性、(6)損害の有無及び額である。特に、通常要求される捜査により本件カルテや性器の状態に関する客観的証拠を収集できたか、再審請求人に証拠一覧表交付請求権という法律上保護された権利利益が認められるかが中心的論点となった。 【判旨】 大阪地裁は原告らの請求をいずれも棄却した。公訴提起の違法性については、最高裁昭和53年10月20日判決の枠組みに従い、「検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して、合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りる」との基準を採用したうえで、診断書作成医からの直接聴取や別の産婦人科の診断結果の収集は通常要求される捜査とはいえず、A子らの供述には具体性・一貫性があり虚偽供述の動機も見出し難かった以上、P1検事の嫌疑認定は不合理ではないと判断した。公訴維持・勾留継続についても、公判段階で証拠関係に実質的な変化がなかった以上、補充捜査を行わなかったことは違法でないとした。 裁判官の判決行為の違法性については、最高裁昭和57年3月12日判決を引用し、「違法又は不当な目的をもって裁判したなど、付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認めうる特別の事情」が必要であるところ、原告らの主張は事実認定・証拠評価への批判にとどまり、A子の虚偽告白も控訴審判決時には裁判所に知られていなかったとして、特別の事情は認められないとした。 証拠一覧表交付拒否については、本件交付命令当時(平成27年1月)、改正刑訴法316条の14第2項の施行前であり、通常審でも明文根拠はなく、再審請求審には証拠開示手続が準用されていないことから、再審請求人の証拠一覧表交付請求権は法律上保護された権利利益とは認められないとした。裁判所が訴訟指揮権に基づき証拠一覧表交付を命ずる余地はあるものの、これに検察官が従わなくても再審請求人の実体的権利が毀損されるわけではなく、交付を受ける利益は反射的利益にとどまるとの判断を示した。なお担当検察官は本件カルテを進んで開示しており、実質的な防御権侵害の事態は想定し難いとも付言している。