AI概要
【事案の概要】 平成10年1月14日、群馬県群馬郡a町(現・高崎市)所在の原告宅において、原告の父A、母B、祖母Cの3名が殺害された事件である。被告は事件以前から原告に対してつきまとい行為を繰り返しており、事件当日の夜、原告宅に侵入してAら3名を刺殺等により殺害した後、行方をくらまし逃走を続けていた。被告は警察の捜査により犯人と特定されていたが、本件訴訟提起時点でも所在不明のままであった。 原告は、Aらの唯一の肉親として遺された子であり、A及びBから各2分の1、Cから8分の1の割合で損害賠償請求権を相続したほか、近親者固有の慰謝料請求権を有する立場にあった。原告は、事件から20年が経過する直前の平成30年1月12日、代理人弁護士を通じて被告の住民票上の最後の住所地に宛てて、損害賠償請求の意思を明示した内容証明郵便(本件通知)を発送した。もっとも、当該住民票は平成13年に職権消除されており、同郵便は「宛所尋ねあたらず」として返送された。本訴において原告は、被告に対し、Aら3名の逸失利益・慰謝料の相続分と原告固有の慰謝料・弁護士費用の合計1億0370万3520円及び遅延損害金の支払を求めた。被告は公示送達による呼出しを受けたが口頭弁論期日に出頭しなかった。 【争点】 本件の中心的争点は、民法724条後段(当時)の20年の期間が経過する前に損害賠償請求権が保存されたといえるかである。具体的には、①同条後段が除斥期間か消滅時効かという法的性質の問題、②仮に除斥期間であるとして、職権消除された最後の住所地に宛てた到達しない内容証明郵便によって権利保存の効果が生じるか、③逃亡中の加害者に対する到達擬制が認められるかが問題となった。 【判旨】 裁判所は、請求をほぼ全額認容し、被告に対し1億0370万3520円及び平成10年1月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命じた。 民法724条後段の性質については、これを除斥期間と解することが確立した判例(最高裁平成元年12月21日判決等)であるとし、平成29年民法改正によって消滅時効と位置づけられたことをもって現行法の解釈を変更すべきではないとして、原告の時効説を採用しなかった。 もっとも、除斥期間内の権利保存については、最高裁平成4年10月20日判決を引用し、除斥期間満了までに裁判外で権利行使の意思を明確にすれば足り、裁判上の権利行使までは必要でないと判示した。その上で、本件通知は16年以上前に職権消除された住所地に宛てられ現実には被告に到達していないものの、被告はAら3名を殺害して以降、刑責の追及を逃れるため自ら住所を移転しながらその届出をせず居所の発覚を免れようとしていたのであるから、被告は自らの行為に起因する不利益を甘受すべきであるとして、本件通知は被告が了知し得べき客観的状態を生じさせたものとして被告に到達したと認めるのが相当であると判断した。そして、発送から2日後である平成30年1月14日までに到達したと評価でき、原告は除斥期間内に本件損害賠償請求権を保存したと結論づけた。 本判決は、長期間逃亡を続ける加害者との関係で、被害者遺族に酷な結果を避けるため、到達擬制の法理を柔軟に活用した事例として、殺人事件等の重大犯罪における民事責任追及の実務に重要な指針を示すものである。