不当利得返還請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、特許発明の発明者であった控訴人(一審原告)が、特許権者であった訴外テクノ東郷から特許権の持分および不当利得返還請求権を譲り受けたとして、被控訴人(一審被告・株式会社マコメ研究所)に対し、民法703条・704条に基づき不当利得金およびその法定利息の一部である合計100万円とその遅延損害金の支払を求めた事案である。 本件特許(特許第3256880号)は「地殻活動総合観測装置」に関する発明で、控訴人が発明者、テクノ東郷が特許権者であった。被控訴人は、平成19年に静岡県菊川観測点向けの「デジタル式2連地殻活動総合観測装置」(イ号物件)を製造・販売したが、控訴人は、当該イ号物件が本件発明の技術的範囲に属するにもかかわらず被控訴人が実施料を支払わなかったため、実施料相当額(1800万円)につき法律上の原因なく利得を得たと主張した。 もっとも、控訴人は、本件特許の発明者であると同時に、当時名古屋大学に所属するみなし公務員の研究者として、被控訴人によるイ号物件の開発・製造に深く関与していた。控訴人は、平成17年5月の時点でイ号物件の仕様書案を確認し、これが本件発明の構成要件を充足することを認識していたが、その後も製造・設置工事の各段階で指示を出したり検査に立ち会ったりし、被控訴人に対し製造中止や実施料の支払を求めたことはなかった。原審(東京地裁)は、テクノ東郷が本件特許の実施を黙示に許諾していたと認められ、かつ控訴人への不当利得返還請求権の譲渡も認められないとして請求を棄却し、控訴人が控訴した。 【争点】 主な争点は、(1)特許権者テクノ東郷による被控訴人に対する本件特許の無償実施の黙示の許諾の有無、および(2)テクノ東郷から控訴人への不当利得返還請求権の譲渡の有無である。控訴人は、みなし公務員として職務専念義務を負っており営利活動は禁じられていたから、テクノ東郷の代理人として実施料請求等を行えるはずがないなどと主張した。 【判旨】 知財高裁は控訴を棄却した。 裁判所は、控訴人がイ号物件の構成要件充足性を認識した後も、開発・製造・検査の各段階で被控訴人と継続的に接触しながら、テクノ東郷をして製造中止や実施料支払を求めさせることをしなかった事実に着目し、これをテクノ東郷による黙示の許諾を基礎づける事情と評価した。控訴人が代表者の実弟であるテクノ東郷の保有する他の特許権に関する契約書原案の作成に控訴人自身が関与していた事実や、その後作成された通告書等において控訴人がテクノ東郷の代理人として行動している事実も、テクノ東郷がイ号物件製造当時に本件特許の実施に関する意思決定を控訴人に包括的に委ねていたことを推認させるとした。 また、みなし公務員であった控訴人の職務専念義務についても、その内容は勤務時間中の注意力を職責遂行に用いることにとどまり、特許権の実施に関する意思決定を包括的に委ねられることが直ちに職務専念義務違反となるものではないとし、職務専念義務を理由に黙示の許諾の成立を否定する控訴人の主張を排斥した。不当利得返還請求権の譲渡についても、提出証拠からは譲渡の事実を認めるに足りないとした。 本判決は、特許権者と発明者・実施企業が近接した関係にある場合において、権利者側の長年にわたる権利行使の懈怠や開発・製造への積極的関与が黙示の実施許諾を基礎づけ得ることを示した事例として、実務上参考になる。