AI概要
【事案の概要】 本件は、原告(ソフトバンクロボティクスヨーロッパ。旧商号オルドウバラン,ロボティクス)が、発明の名称を「移動ロボットのコンテキスト動作を生成するためのシステムおよび方法」とする特許出願(平成22年7月12日出願、パリ条約に基づきフランス国における平成21年7月10日の出願を基礎とする優先権主張)について、平成27年4月9日付けで拒絶査定を受けたため、拒絶査定不服審判を請求するとともに手続補正書を提出したところ、特許庁が平成29年5月16日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をしたことから、その取消しを求めた事案である。 本願発明(請求項1)は、人間型ロボットが話す抑揚や身振りを伴う動作を編集・制御するためのシステムに関するものであり、ロボットが話すテキストを編集するモジュール、音声合成モジュール、ロボットの動作に対応するコマンド・タグのライブラリ、テキストへのタグ挿入モジュール等を備え、コマンド・タグが動作を表現する図形的なシンボルを含み、ライブラリがツリー構造を有することを特徴とする。本願発明の狙いは、動作のプログラミングに特化した言語が職業的プログラマーに限定されていた状況を克服し、マークアップ言語に通じていない一般ユーザでも、図形的なシンボルを選ぶだけで簡単にロボットの動作を制御できるようにする点にある。 本件審決は、引用発明(特開2003-308142号公報記載の発明。メッセージ中の文字列と対応付けられた動作制御情報を埋め込んでロボットを動作させるシステム)との間に三つの相違点を認定した上で、引用例2、3および参考文献1〜3により認められる周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたとして特許法29条2項により拒絶されるべきとしたものである。 【争点】 争点は、本願発明の進歩性判断の誤りの有無であり、具体的には、本願発明と引用発明との相違点1(テキストがロボットにより話されるものか否か)、相違点2(コマンド・タグが図形的なシンボルを含むか否か)、相違点3(ライブラリがツリー構造を有するか否か)について、それぞれ当業者が容易に想到し得たものといえるかである。 特に相違点2については、原告は、引用例1が「顔文字を文章中に多数埋め込むと電子メールが見づらくなる」という課題を解決するためにマークアップ言語形式の制御タグを採用しており、顔文字等の図形的シンボルによる制御を組み合わせることには阻害要因があると主張した。また相違点3については、参考文献3は本願発明とは技術分野・解決課題が全く異なり、コマンド・タグそれ自体ではなくタグのカテゴリがツリー構造になっているにすぎないと反論した。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。 相違点1について、ロボットに発話させることは本願優先日前の周知技術であり、引用例1にもメッセージ読上手段をロボットの一部として構成することを示唆する記載があることから、当業者が適宜採用し得る事項であるとした。 相違点2について、引用例2、3および乙1〜3文献に照らせば、テキスト中の絵文字や顔文字によりロボットの動作等を制御することは周知技術であったと認定した。そして、引用例1が指摘する「電子メールが見づらくなる」という課題は、出力形態が音声のみである場合には生じず、また詳細な感情表現が不要な場合にまで顔文字の使用を積極的に排除する趣旨は読み取れないから、引用発明に周知技術を組み合わせることに阻害要因は認められないとした。 相違点3についても、ロボット制御を含むコンピュータのプログラミングに供するシステムにおいて、ユーザに選択させる情報をツリー構造で管理し表示することは周知技術であり、引用発明においてデータ選択を容易にするためこれを採用する動機付けがあり、阻害事由もないと判断した。また原告が主張する「コマンド・タグそれ自体がツリー構造」という構成は請求項1の文言には含まれておらず、その効果も周知技術から予測可能な範囲を超えないとした。 本判決は、特許実務において、先行文献に特定の課題解決手段が開示されている場合でも、当該課題が生じない態様や程度問題として処理し得る場合には、別の周知技術との組合せが必ずしも阻害されないことを示した事例として意義がある。