各業務上過失致死
判決データ
AI概要
【事案の概要】 静岡県御殿場市の陸上自衛隊東富士演習場内にある約3000ヘクタールの入会地では、害虫駆除や自衛隊演習による野火発生防止、不発弾清掃の効率化を目的として、昭和36年頃から地元の4つの入会組合の共同主催により毎年野焼作業が行われてきた。平成22年3月20日に実施された本件野焼作業には約400名の地元作業員が参加し、作業対象地域は5つの作業区と19の作業班に細分化されていた。被告人Aは主催組合の一つであるG組合の組合長で作業総責任者、被告人BはG組合の事務局長で実施計画書案を起案する立場にあった。 事故当日、第3作業区のH1班に所属する被害者ら3名は、幅員約4.7メートルの「入会7号」と称する道路に立ち入り、道沿いに一列に並んで前方に進みながら道端の萱に次々と着火していくという手順で作業を進めた。作業中、強風にあおられた火炎が一帯に燃え広がり、被害者ら3名は避難できないまま焼死した。検察官は、被告人両名が実施計画段階で「防火帯」以外の場所からの着火禁止や「防火帯」の場所の取決めを作業員に周知徹底しなかった過失があるとして業務上過失致死罪で起訴し、原審は両被告人にそれぞれ禁錮1年執行猶予3年、禁錮10月執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。これに対し被告人両名が事実誤認を主張して控訴した。 【争点】 被告人両名に、経験豊富な現場作業員らが「野焼作業の鉄則」に反して原野内で着火するに等しい危険な行為に及ぶことについての予見可能性があり、かつ結果回避義務が課されていたといえるかが争点となった。具体的には、入会7号の状況を認識していた主催者側に対し、安全な着火場所の特定と作業員への周知徹底義務を負わせることが相当かが問われた。 【判旨(量刑)】 東京高裁は、原判決を破棄して被告人両名に無罪を言い渡した。 裁判所はまず、緊急時の避難場所となり得る安全地帯を背にしてその外縁部に着火し焼け跡を広げていく方法で作業を進めるべきことは「野焼作業の鉄則」であり、野焼作業に関与したことのある者にとっての常識であると認定した。本件野焼作業では、主催者側があらかじめ日時や作業区域を定める一方、具体的な着火場所は地形・風向・萱の状態等に応じて現場の作業員らの判断に委ねるという運用が長年踏襲されており、これは伝統と経験に裏打ちされた相応の合理性を有するものであった。被害者ら3名を含むL支隊員らは、いずれも野焼作業に複数回参加した経験者であり、班全体として現場の地勢を了解し安全手順を十分わきまえた集団であった。 その上で裁判所は、被告人両名の立場からすれば、入会7号の存在を認識していたとはいえ、経験豊富な現場作業員らが「野焼作業の鉄則」に反して原野内で着火するに等しい危険な行為を行うことは通常想定し得ず、計画の企画・立案段階でこれを具体的に予見できた又は予見すべきであったというのは常識的に無理があると判示した。また、作業員の誰もが知っている「鉄則」に反する行為の禁止を主催者に義務付けることは不合理であり、「防火帯」の場所取決めと周知徹底の義務についても、これまで大きな事故が起こっておらず作業担当責任者らからも異論が出ていなかった状況下では、被告人両名に課せられていたとはいい難いとした。 原判決は結果回避措置を先に設定してから責任主体を検討する判断枠組みを採っていたが、裁判所はこれを適切でないとし、また条例上の延焼防止目的の「防火帯」概念を人の生命身体の安全確保の場所概念に転用することも不適切であると指摘した。結論として、被告人両名には被害者ら3名等による本件着火行為による事故についての予見可能性も結果回避義務も認められないとして、犯罪の証明がないことから刑訴法336条により無罪を言い渡した。