AI概要
【事案の概要】 本件は、コンタクトレンズ販売店「コンタクトレンズギャラリー」「スマートコンタクト」を経営する原告会社が、同じくコンタクトレンズ販売店「スマイルコンタクト」を経営する被告会社に対し、合計約920万円の損害賠償を求めた事案である。原告と被告は、従前、原告代表者P1が両社の役員を兼ねていた関係にあり、被告が大阪駅前等にコンタクトレンズ販売店を開設するに当たり、その運営を原告に委託するという業務提携関係にあった。各店舗は、眼科を併設せず検査なしでコンタクトレンズを購入できる新しいビジネスモデルを採用し、隣接する医療法人山樹会経営の「P2眼科」と提携していた。 平成28年1月、P1が被告の取締役から解任され、P2も被告代表取締役を辞任したことを契機に、両社の関係は悪化した。同年夏以降、被告は原告運営の旧大阪駅前店・旧堺東店の運営委託を解消し、同じ場所で自ら「スマイルコンタクト大阪駅前店」等を開店したほか、原告の上新庄店の隣に「スマイルコンタクト上新庄店」を開店した。また、原告で勤務していた従業員ら多数が短期間に一斉に退職し、その多くが被告の店舗で勤務するようになった。 原告はこれらの一連の行為について、(1)旧大阪駅前店用チラシ(本件チラシ)の表現を被告チラシが複製したとする著作権・著作者人格権侵害、(2)従業員を大量に引き抜いた不法行為、(3)フランチャイズ契約に基づく競業避止義務違反ないし違法な競業行為を理由に、損害賠償を求めた。 【争点】 争点は大きく三つである。第一に、本件チラシに著作物性が認められるか、また著作権が原告に帰属するか、被告チラシが著作権等を侵害するか。第二に、被告による従業員の引き抜き行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものとして不法行為を構成するか。第三に、原告と被告の間に「覚書」(甲12)によるフランチャイズ契約が成立し、被告が競業避止義務を負っていたか、上新庄店付近での被告の勧誘行為が違法な競業行為に当たるかである。 【判旨】 裁判所は原告の請求をいずれも棄却した。 著作権関係では、本件チラシ中の「検査時間・受診代金に×印を付した表現」「コンタクトレンズの買い方比較表」「検査なしで購入できる理由の説明文」について、いずれもビジネスモデル自体が著作権の保護対象とならない上、不要事項に×を付したり、比較内容を表形式で示したり、客観的な制度を説明したりすることはありふれた表現にすぎず、表現上の創作性は認められないと判断した。これらの組合せやイラストを加えた全体としても、特徴的な手法とはいえず創作性は基礎づけられず、著作物性を否定した。 従業員引抜きについては、従業員には職業選択の自由、事業者には営業の自由があり、他社従業員への転職勧誘が違法となるのは、信用を不当に害する方法によるなど社会通念上自由競争の範囲を逸脱した場合に限られると判示した。その上で、被告経営陣が直接勧誘や指示を行ったと認める証拠はなく、退職者のうち旧大阪駅前店・旧堺東店の従業員については店舗閉鎖という特殊事情があり、他の退職者も社会保険料の不適切処理や退職金未払い等への不信感から自発的に退職したと認められる経緯であって、違法な引抜き行為があったとはいえないとした。 競業関係では、フランチャイズ契約の根拠とされた「覚書」について、取引先から転売が契約違反と指摘されたことへの対応として、日付を遡らせて作成された可能性が高く、両当事者がフランチャイズ契約を締結する意思を有していたとは認められないとして、競業避止義務の存在を否定した。上新庄店前の共用スペースでの勧誘行為についても、ビル共用部での案内自体は自由競争の範囲内であり、原告店舗に向かう明確な意思を示した者には勧誘を中止していたこと、「眼科が運営しているコンタクトレンズ屋」との説明は不正確ではあるが、被告店舗と眼科との提携関係は事実であり顧客の判断を誤らせる程度とはいえないことから、自由競争の範囲を逸脱した違法な競業行為とは認められないと判断した。 本判決は、販促用チラシの表現要素について、アイデアと表現の二分論に立ちつつ創作性の基準を具体的に示したほか、従業員の大量退職を伴う事業譲受類似の局面における引抜き行為の違法性判断基準、およびフランチャイズ契約書が取引先対応目的で作成されたと推認される場合の契約成立の認定の在り方について、実務上参考となる判断を示した事例である。