AI概要
【事案の概要】 本件は、「発破用填塞物の製造方法」を名称とする発明に係る特許権(特許第3458131号。権利存続期間は平成15年8月8日から平成25年8月8日まで)を有していた原告(益田興産株式会社)が、発破用込物を製造販売する被告(エスビー工業株式会社)に対し、被告が販売する発破用込物「SB・クレイタンパー」の製造方法が本件特許発明の技術的範囲に属すると主張して、不法行為(特許権侵害)に基づき、9900万円の損害賠償およびこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。 本件特許発明は、トンネル工事等で発破孔に爆薬を装填した後、発破孔を密閉して発破効率を高めるための填塞物(込物)の製造方法に関するものである。従来、填塞物の素材としては緑泥石などの粘土が用いられてきたが、産地が限られて運送コストが大きいという難点があった。そこで本件発明は、花崗岩が風化したマサ等を破砕した際の汚泥(マサの破砕汚泥)や砕石汚泥を脱水した脱水汚泥(含水率20〜25%程度)を主原料とし、これに粘性・保水性に富むベントナイト粉末(含水率7〜20%程度)を絶乾重量比で2〜4対1の割合で加えて混練し、押出成形するという工程を採用することで、産業廃棄物の有効利用と安価な大量生産を両立させようとするものであった。構成要件は、A(脱水汚泥の使用)、B(ベントナイト粉末の添加)、C(所定の含水率・絶乾重量比での混練)、D(所定径・長さへの押出成形・切断)の4要件に分説される。 被告の製造する発破用込物は、時期により原料構成が変遷しており、原告が本件訴訟提起前後に入手した被告製品の島根県産業技術センターによる定性分析の結果、砂分の形状が岩石由来の破片を含み、粘土分にモンモリロナイトやカオリナイトが含まれていることが示された。これを根拠に原告は、被告製品がマサの破砕汚泥・砕石汚泥に相当する脱水汚泥を用い、かつベントナイトを加えて製造されていると主張した。これに対し被告は、東北工場で用いた原料は各時期において根本産業製の根本粘土、安倍川開発製のスーパーソイル、いわき粘土等の既製の粘土であって、いずれも「マサの破砕汚泥・砕石汚泥を脱水した脱水汚泥」にも「ベントナイト粉末」にも当たらないと反論した。 【争点】 主な争点は、被告製造方法が本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件充足性)、とりわけ構成要件Bにいう「ベントナイト粉末(含水率7〜20%程度)」の意義と、被告製品の製造原料がこれに該当するかである。原告は、原料物質中の粘土分の主成分がモンモリロナイトでアルカリ性であれば、当該原料が「ベントナイト粉末」に該当し、粘土分以外の成分が含まれていても差し支えないと主張した。これに対し被告は、粘性や保水性に富み市場でベントナイト製品として通用するもの、すなわちベントナイト単体の粉末に限られると主張した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を棄却した。まずベントナイト自体の意義について、粘土ハンドブック等の技術文献を参照し、「ベントナイト」とは、モンモリロナイトを主成分としつつ副成分鉱物を随伴するアルカリ性粘土岩の名称であると認定した。そのうえで構成要件Bの「ベントナイト粉末」とは、このような粘土岩として存在する単体の粉末、すなわちモンモリロナイトを主成分として存在するアルカリ性粘土岩単体の粉末をいうと解するのが相当であるとし、粘土分以外のものを含む混合物はこれに当たらないと判断した。この結論は、請求項1と請求項2の書き分け(請求項2では水を別途加える旨の記載がある点)や、本件明細書の記載(実施例で「粉末ベントナイト」を用いる旨の記載しかない点、発明の効果として「ベントナイトも安価で容易に入手できる」として市場で容易に入手できるベントナイト単体が想定されていること)からも裏付けられるとした。 そのうえで、被告製品自体の分析結果については、モンモリロナイトが検出されたとしても、モンモリロナイトを成分として含む粘土はベントナイト以外にも多数存在するため、ベントナイトが原料として加えられていると直ちに推認することはできないとした。また、被告が主張する原料(根本粘土、スーパーソイル、いわき粘土)については、被告の仕入取引の客観的裏付けがあり、被告製品との成分分析の整合性や粒度分布の差異が許容範囲を超えないことから、被告の主張を虚偽と断じることはできないとした。そして、原告がベントナイト粉末に当たると主張するスーパーソイルについては、その大半が粒径2μmを超える粒子で構成されており、全体試料のX線回折でモンモリロナイトが結晶相として同定されていないこと、粘土分の割合が小さく「粘土岩」と呼ぶことが困難であることから、「ベントナイト粉末」に該当しないと認定した。根本粘土等についても同様の理由で該当性を否定した。 結論として、被告製造方法は構成要件Bを充足しないから、その余の構成要件の充足性やこれを前提とする損害額の判断をするまでもなく、原告の請求は理由がないとして棄却された。本判決は、「ベントナイト粉末」のような市場流通材料を発明特定事項とする化学関連特許において、特許請求の範囲の文言を技術常識および明細書の記載に照らして厳格に解釈し、原料成分分析のみから特許発明の構成要件充足を推認することを認めなかった実務的意義を持つ事案である。