AI概要
【事案の概要】 本件は、平成14年7月28日未明、愛知県豊川市内のゲームセンター駐車場に駐車中の乗用車内から1歳10か月の被害児を抱きかかえて略取し、自車で海岸岸壁まで運んだ上、同岸壁から海中に投げ落として溺死させたとして未成年者略取及び殺人の罪で有罪確定判決を受けた請求人が、無罪を言い渡すべき明らかな新証拠を発見したとして申し立てた再審請求事件である。 確定判決は、被害児が駐車車両内から連れ去られて海中に投棄され遺体で発見されたこと、請求人が犯行時刻近くに自車を犯行現場近くに駐車させていたことなどの客観的事実に加え、請求人の捜査段階の自白を主たる証拠として犯人性を認定していた。請求人は逮捕前の任意聴取段階で略取・殺人の事実を認め、逮捕後も約2週間にわたり警察官・検察官・裁判官・弁護士に一貫して自白を維持し、同房者にも犯行を認めていた。その後、弁護人との接見を契機に否認に転じ、確定後に再審を請求するに至った。 再審請求審では、被害児遺体の逆漂流予測図の精度、目撃証言の信用性、動機の合理性、現場付近の信号表示、微物鑑識の結果、被害児の溺水態様等に関する多数の新証拠(意見書・鑑定書・再現実験・航空写真等33点)が提出された。 【争点】 新証拠が刑事訴訟法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」に該当するか、すなわち請求人の自白の任意性・信用性を揺るがし、確定判決の事実認定を覆すに足りる証明力を有するかが争点となった。 【判旨(量刑)】 名古屋高等裁判所は、本件再審請求を棄却した。 まず自白の任意性・信用性について、逮捕前の任意聴取で短期間のうちに自白しており虚偽自白に追い込まれたとみるべき事情はないこと、逮捕後も捜査官のみならず裁判官・弁護士にまで一貫して自白を維持していたこと、利害関係のない同房者にも犯行を認めていたこと、捜査官が知り得ない請求人の生い立ち・性格・家庭環境が本件の経緯・動機と結び付けて具体的に語られ臨場感があること、現場案内中に涙を流し被害児を投棄した海に向かって合掌する行動をとっていたこと、犯行現場付近での車中泊を裏付ける複数の目撃供述と整合していること、自らが駐車場に居た経緯について虚偽供述を繰り返していたこと等を総合すれば、自白には任意性のみならず高度の信用性が認められるとした。 新証拠の評価については、逆漂流予測図は推算にすぎず精度に限界があるから自白と矛盾しないこと、目撃証人は毎晩同様の車を目撃しており車種知識の細部に不正確な点があっても供述の根幹は動かないこと、置き去り可能な場所が他にあったことは動機の不自然さを裏付けないこと、信号表示に関する齟齬は事件から8か月以上経過後の供述で記憶違いの可能性があり根幹部分に影響しないこと、事件から2か月以上経過後の微物鑑識で繊維が検出されなかったことと再現実験の結果に意義を認めないこと、溺れる際にもがかない場合があることは本件における被害児がもがいた事実を否定しないこと、他事件を引用した心理鑑定意見は本件自白の評価を左右しないこと等を指摘し、いずれも自白の根幹部分の信用性を揺るがすものではないとした。 以上より、新証拠はいずれも刑訴法435条6号所定の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらず、本件再審請求には理由がないとして刑訴法447条1項により棄却した。幼児の生命が奪われた重大事件における再審請求について、自白の根幹部分の信用性と客観証拠との整合性を精査した上で棄却した事例である。