商標権侵害行為差止等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、控訴人(原告・日本法人のジー・エス・エフ・ケー・シー・ピー株式会社)が保有する商標権につき、被控訴人ら(株式会社国際建機販売およびその関係者Y)が類似標章をコンクリートポンプ車等の販売および営業活動に使用しているとして、被控訴人らに対して商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償として連帯して2140万円および遅延損害金の支払を求めた事案である。原審(東京地裁)において、控訴人は、損害賠償請求のほか、商標法36条1項・2項に基づく被告標章を付した商品の販売等の差止め、ウェブページ上の類似商標の削除、および同法39条で準用する特許法106条に基づく謝罪広告の掲載をあわせて請求していたが、原審は控訴人の請求をすべて棄却し、控訴人のみが損害賠償請求に関する部分について不服を申し立てた。 事案の背景には、韓国のコンクリートポンプ車メーカー「KCP社」(正式英語表記をめぐって当事者間に争いがある)との取引関係がある。控訴人代表者は、当初、韓国メーカーKCP社の製品を日本国内で販売する代理店的役割を担っていたが、その後、日本国内において「KCP」を要素とする商標を自ら登録出願し、平成27年6月1日に登録査定を受けた。これに対し、KCP社の日本での流通に関与する被控訴人らが「KCP」を含む標章をコンクリートポンプ車等に使用していたことから、控訴人はこれを商標権侵害と主張したものである。なお、本件商標については、商標登録無効審判において特許庁が平成30年10月29日付で本件商標登録を無効とする旨の審決を下している。 【争点】 主たる争点は、(1)KCP社商標(韓国メーカーが使用してきた「KCP」標章)が、本件商標の登録出願時および査定時において需要者の間に広く認識されていたといえるか(商標法4条1項19号の周知性)、(2)KCP社の正式な英語表記が「KCP」か「KCEP」か、の2点である。控訴人は、KCP社の登記上のハングル商号を国語基本法の原則に従って英訳すると「KCEP」となり、自社商標はあくまで「KCP」であって同社商標とは別個であると主張した。これに対し被控訴人らは、KCP社は設立以来、自社製品や型番、見積書、契約書等において一貫して「KCP」を使用しており、韓国貿易協会や事業者登録証明等の公的・半公的書類でも「KCP」と表記されていると反論した。 【判旨】 知財高裁第2部は控訴を棄却し、原判決を維持した。まず、KCP社は設立後、自社製品に「KCP」の文字を付して販売し、型番の一部にも使用しており、外国企業への見積送り状や契約書等においても自社を「KCP HEAVY INDUSTRIES CO.,LTD.」と表記していることが認められると判断した。他方、KCP社自身が「KCEP」との英語表記を用いた事実は証拠上認められず、韓国貿易協会の会員登録上の一時的な「KCEP」への変更も控訴人の働きかけによるものであり、同社が関与していたとは認められないとした。したがって、KCP社は自社の英語表記として「KCP」を選択して使用したものであり、この点はハングル商号を英語に訳する際の訳語いかんに左右されないと判示した。 また、控訴人代表者自身が、本件商標出願時点でKCP社が「KCP」商標を使用している事実を認識しており、KCP社の理事に宛てた韓国語メールでも同社を「KCP」と記載していたことから、控訴人代表者もKCP社の英語表記を「KCP」と認識していたと認定した。なお、周知性判断の基準時は登録出願時および査定時(いずれも平成27年)であり、平成28年以降の売上高の多寡は結論を左右しないとして、控訴人の主張を排斥した。以上より、KCP社商標には出願時および査定時において一定の周知性が認められ、本件商標は不正の目的をもって使用するものとして商標法4条1項19号に該当する余地があるうえ、控訴人の請求はいずれも理由がないと結論づけた。本判決は、外国メーカーとの取引関係を基盤として日本国内で取得された商標権につき、外国メーカー自身が使用する欧文表記との関係で権利行使の可否が問われた事例であり、商標法4条1項19号における周知性の認定および「正式な英語表記」の評価手法について実務上の示唆を与えるものである。