AI概要
【事案の概要】 本件は、京都市道上を普通自動二輪車で走行中の原告Aが、路上に存在した穴ぼこ(東西約65cm、南北約50cm、深さ約6.5cm)に前輪をはめて転倒し、右頭部等を路面に打ちつけて負傷したことを発端とする国家賠償請求事件である。原告Aは頚椎捻挫、頭部打撲、左耳の感音性難聴・耳鳴等の傷害を負ったとして、道路管理者である被告(京都市を所管する国・地方公共団体)に対し、国家賠償法2条1項に基づき約312万円の損害賠償を請求し、事故車両の所有者である原告B(原告Aの子)も修理費16万余円を請求した。 事故発生当日は晴天で道路は乾燥しており、現場は東西に直線的に伸びる見通しの良い市道であった。本件穴ぼこはアスファルトが剥がれ土が露出した状態で公園出入口の目の前に位置していた。道路管理者である被告が管理の瑕疵を認めたため、責任原因自体は争いがなく、もっぱら過失相殺の割合、左耳鳴・感音性難聴と事故との因果関係、及び損害額が主要な争点となった。 原告Aには後遺障害として頚部痛・両手しびれ(14級9号)、左耳鳴に伴う難聴(12級相当)の併合12級が自賠責の事前認定で認められていたが、被告は左耳鳴等が事故以前からの慢性中耳炎の急性増悪によるものと主張し、contrecoup injury(反衝損傷)に基づく原告の主張を争った。 【争点】 主な争点は、①原告Aの過失相殺の割合、②左耳鳴及び感音性難聴と本件事故との因果関係、③原告Aの休業損害の基礎収入、後遺障害逸失利益、慰謝料等損害額、④原告Bの車両修理費と事故との因果関係、⑤慢性中耳炎を理由とする素因減額の当否である。 【判旨】 裁判所は一部認容判決を下し、原告Aに45万1550円、原告Bに10万6073円の支払を命じた。 過失相殺については、晴天下の直線道路で比較的大きく視認容易な穴ぼこであった一方、原告Aが事前に本件穴ぼこの存在を認識していたとまでは認められないとして、原告Aに4割の過失を認定した。被告主張の7割過失は、原告Aの供述の一部に不自然さはあるものの、日常的通行や事前認識を裏付ける的確な証拠がないとして排斥された。 左耳鳴・感音性難聴の因果関係については、①原告Aが事故前に耳鼻科を継続的に受診していなかったこと、②事故翌日から一貫して左耳鳴を訴え聴力低下が確認されたこと、③事故直後は両耳に耳鳴があり右耳のみ軽快した経過が医学的にcontrecoup injuryと整合すること、④中耳炎の炎症所見が改善した後も耳鳴が残存したことを総合し、事故との因果関係を肯定した。被告側医師の意見書は医学文献による裏付けを欠くとして採用しなかった。慢性中耳炎を理由とする素因減額も、事故前に症状発現の事実が認められないとして斥けた。 損害額については、労災の給付基礎日額1万円で加入していた事実を踏まえ、繁忙期月額20万円・閑散期月額2万円を基礎収入として休業損害148万余円を算定し、後遺障害逸失利益は亡Eからの顧客引継ぎにより増収があったと認めて年収320万円を基礎に259万余円、慰謝料は傷害170万円・後遺障害280万円を認めた。これらに4割の過失相殺を行い、労災給付と人身傷害保険金による損益相殺を施した上で、残額に弁護士費用を付して認容額を算出した。原告Bの車両損害も事故との因果関係を認め、4割の過失相殺後の金額に弁護士費用を加算して認容した。 本判決は、道路管理瑕疵に基づく国家賠償請求において、走行者の前方注視義務と道路管理者の責任を比較衡量して4割の過失相殺を採用した事例として実務的意義を持つ。また、頭部打撲と反対側に耳鳴・感音性難聴が生じる contrecoup injury について医学的知見を踏まえて因果関係を認定し、既往症としての慢性中耳炎を理由とする素因減額を斥けた点でも、人身損害賠償訴訟の因果関係・素因減額判断に参考となる判決である。