AI概要
【事案の概要】 本件は、スプレー缶用吸収体に関する特許(特許第5396136号)の特許権者である原告が、被告の請求により特許庁が同特許の請求項1、6、8に係る発明を無効とした審決の取消しを求めた事案である。 本件発明1は、可燃性液化ガスを充填したスプレー缶製品において、吸収体を灰分1重量%以上12重量%未満のセルロース繊維集合体から構成し、かつスプレー缶内に吸収体と噴出口との間に通気性蓋状部材を配設する構成を特徴とする。ダストブロワーやトーチバーナー用ボンベのように倒立状態で使用されるスプレー缶では、液化ガスが液体のまま漏れ出すと発火事故に直結するため、古紙等を原料とする吸収体で低コストに液漏れを防止することが技術的課題であった。被告は、甲1(広葉樹漂白クラフトパルプ=LBKPを原料とする吸収体の公開公報)に甲2の「連続気泡状パッキング」を組み合わせれば当業者が容易に発明できたとして進歩性欠如を主張し、特許庁は無効審決を下した。 【争点】 主たる争点は、本件各発明が甲1と甲2の技術的事項に基づき当業者が容易に発明できたかであり、①吸収体の灰分含有量を1重量%以上12重量%未満とする点(相違点1)、②吸収体表面に通気性蓋状部材を密接配置する構成(相違点2)の容易想到性が争われた。原告は、「吸収体の性能が古紙原料に含まれる灰分によって大きく左右される」という従来なかった技術的知見を適用して灰分量を最適化した点に技術的意義があると主張した。 【判旨】 知財高裁第4部は、進歩性の判断から先に検討して原告の請求を棄却した。 相違点1について、広葉樹材の灰分含有量は0.1%から2.0%であり、市販のLBKPには1重量%を超える灰分を含むものが普通に存在すると認められる。したがって当業者は、甲1の実施を試みる際に1重量%を超える灰分を含有する吸収体に容易に想到し得たものであり、原告主張の「灰分含有量と保液性能の相関関係」という技術的知見を見出すことは容易想到性の判断に不可欠ではない。 相違点2について、甲2の「連続気泡状パッキング」は円板状多孔質体であり本件発明1の「通気性蓋状部材」に該当する。甲1は倒立時の可燃性液化ガスの液漏れ防止を課題とし、甲2のパッキングは缶体を逆さまにしても液体が液体のまま噴出するのを防ぐ機能を有するから、甲1に甲2を適用する動機付けがある。パッキングの具体的設置方法は当業者が適宜決定できる事項であり、吸収体表面に密接配置する構成の採用に格別の困難はない。 以上より、本件発明1は容易に発明できたものであり、これを含む本件発明6及び8も同様である。よって本件特許は特許法29条2項違反の無効理由があり、原告の請求は棄却された。本判決は、公知文献に特定の数値範囲の明示的示唆がなくても、当該範囲が公知原料の通常の成分範囲に含まれる場合には数値限定の容易想到性が肯定され得ることを示した事例として、数値限定発明の進歩性判断の実務上参考となる。