特許権侵害差止等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、発明の名称を「スプレー缶用吸収体およびスプレー缶製品」とする特許第5396136号(本件特許)の特許権者である被控訴人(エヌ・ケイ・ケイ株式会社)が、控訴人(日本瓦斯株式会社)の製造・販売するスプレー缶製品のうち、吸収体の灰分含有量が特定範囲にあるとされる特定被告製品について、本件特許権を侵害するとして、特許法100条に基づく差止め・廃棄および不法行為に基づく損害賠償738万円等の支払を求めた事案の控訴審である。本件特許は、可燃性液化ガスを保持するセルロース繊維集合体を吸収体として用い、その灰分含有量を1重量%以上20重量%未満(請求項1)または12重量%未満(請求項2)の範囲に調整することで、倒立・傾斜状態での液漏れを防止する点を技術的特徴とする。原判決(大阪地裁)は差止請求と損害賠償請求を認容したため、控訴人がこれを不服として控訴した。並行して、控訴人は本件特許を無効とする別件無効審判を請求し、特許庁は請求項1・6・8に係る特許を無効とする審決をしていた。 【争点】 最大の争点は、乙64の1(特開2008-180377号公報)を主引用例とする本件発明1、2および6の進歩性欠如の有無である(争点3-4)。主引用例は、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)由来のセルロース繊維集合体を吸収体とするスプレー缶製品を開示するが、灰分含有量の記載を欠き、また倒立時の液漏れ防止用の通気性蓋状部材も備えていなかった。したがって、(1)市販LBKPを用いた吸収体において「灰分1重量%以上」の構成に想到することが容易か(相違点1)、(2)乙64の2(噴気式清掃器に関する先行文献)に開示された「連続気泡状パッキング」を本件発明の「通気性蓋状部材」として組み合わせることが容易か(相違点2)、が中心的な争点となった。さらに、被控訴人が当審で提出した訂正の再抗弁(請求項1の灰分上限を12重量%未満に減縮する本件訂正)により無効理由が解消するか否かも問題となった。 【判旨】 知財高裁は、原判決を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却した。まず、控訴人の無効の抗弁が原審では時機に後れた攻撃防御方法として却下されていたが、当審では別件審決を受けて控訴理由書当初から提出されていることから、時機に後れたものとはいえないとして却下を認めなかった。その上で進歩性判断において、乙59の技術文献に広葉樹材の灰分含有量が0.1~2.0%と記載されていることから、市販LBKPには灰分1重量%を超えるものが普通に存在すると認定し、当業者は乙64の1の実施に際して灰分1重量%超のセルロース繊維集合体に容易に想到できたと判示した。また相違点2については、乙64の2の「連続気泡状パッキング」は倒立時の液漏れ防止を目的とする円板状多孔質体であり、可燃性液化ガスの液漏れ防止という共通課題の下、これを乙64の1の吸収体表面に密接に配置することに動機付けがあるとした。結論として、本件発明1、2および6はいずれも進歩性を欠き、特許法29条2項違反の無効理由を有するから、被控訴人は同法104条の3第1項により本件特許権を行使できないとした。加えて、本件訂正後の請求項1は本件発明2と同一構成であり、同訂正によっても無効理由は解消しないとして、訂正の再抗弁も退けた。本判決は、数値限定発明における進歩性判断において、引用発明の実施に際し当業者が通常入手可能な原料の物性範囲から数値範囲内の構成に容易に想到し得るかを具体的に検討した事例として、実務的意義を有する。