損害賠償等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、「ルーシーダットン」と呼ばれるタイ伝統の自己整体法(呼吸法とポーズを組み合わせた健康法)に関する書籍2冊の「監修者」として氏名が表示されている控訴人が、被控訴人(株式会社キッズ・カンパニー)に対し、慰謝料100万円の支払を求めた損害賠償請求控訴事件である。 被控訴人は、自社が管理するウェブサイトにおいて、所属インストラクターA1の「主な著書」として本件各書籍の題号を掲げ、本件書籍1につき「全面指導解説、DVD全面出演指導」、本件書籍2につき「全面指導解説」と注記して表示していた。控訴人は、本件各書籍の真の著作者は自分であるにもかかわらず、被控訴人が自己のウェブサイト上でA1をあたかも著作者であるかのように表示したことは、著作者人格権たる氏名表示権(著作権法19条)を侵害すると主張して、原審(東京地方裁判所)で民法709条に基づく損害賠償を請求した。 原審は、氏名表示権は著作物を公衆に提供・提示する際に著作者名の表示の有無や表示方法を決定する権利であるところ、被控訴人のウェブサイトでは本件各書籍の公衆への提供・提示が行われておらず、そもそも氏名表示権侵害の対象外であるとして、請求を棄却した。これを不服とした控訴人は控訴し、控訴審においては主張を改め、被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」という新たな利益と構成し直した上で、一般不法行為として保護を求めた。 【争点】 第一に、控訴審で新たに主張された「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」という被侵害利益の主張が、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきか(民訴法157条1項)。第二に、本件各書籍が編集著作物に当たり、控訴人がその著作者と認められるか、特に奥付等における「監修」との表記によって著作権法14条の著作者推定が働くか。第三に、被控訴人のウェブサイト上の表示が、控訴人の主張する上記被侵害利益を侵害する不法行為に当たるか。 【判旨】 控訴棄却。知財高裁は、まず時機に後れた攻撃防御方法の却下申立てについて、控訴審における新主張は原審の口頭弁論終結時までに提出可能であった点で時機に後れていると認めつつも、控訴審第1回期日で主張され第2回期日で弁論が終結されたため訴訟完結を遅延させるものとは認められないとして、却下申立てを退けた。 その上で、本件各書籍の著作者性について検討し、両書籍の奥付には、発行者、発行所、企画、総合プロデュース、編集、撮影、イラスト、DVD制作等として控訴人以外の多数の個人・団体名が様々な立場で関与者として記載されていることを指摘。「監修」とは「書籍の著述や編集を監督すること」(広辞苑)を意味するにとどまり、著述や編集そのものを行う立場とは異なることから、控訴人が「監修者」として表示されているだけでは、著作権法14条による編集著作物の著作者推定は働かないと判断した。また、控訴人が素材の選択・配列について創作性を発揮したことを裏付ける主張立証も、控訴人自身の陳述書以外になく、陳述書の内容も「明確に覚えていない」とするものであったことから、控訴人が編集著作物の著作者であるとは認められないとした。 さらに傍論として、仮に控訴人が編集著作者であったとしても、A1は本件書籍1で「ポーズ指導」、本件書籍2で「技術指導・DVD出演」として関与しており、書籍の中核部分たるポーズに関する記載について著作者又は編集著作者となる余地があるため、被控訴人ウェブサイトの「主な著書/全面指導解説」等の表示は、控訴人の主張する被侵害利益を侵害したとは直ちに認められないと説示した。 以上より、控訴人の請求は理由がなく、原判決の結論は相当であるとして、控訴を棄却した。本判決は、書籍の奥付における「監修」表記のみでは著作権法14条の著作者推定規定の適用がないことを明確にし、また、著作権法19条の氏名表示権の枠を超えた「インターネット上で著者と偽られない利益」という新たな人格的利益の主張に対し、編集著作物性や創作的関与の立証が厳格に求められることを示した事例として、インターネット時代における著作者表示の保護のあり方を考える上で実務的意義を有する。