AI概要
【事案の概要】 被告人は、平成30年9月9日午前10時6分頃、札幌市内の店舗において、商品として陳列されていたたばこ3箱(販売価格合計1380円)を万引きして店外に出た。その後、同店西側駐車場に駐車中の自動車に乗り込んだ際、犯行に気付いて追跡してきた店長(当時37歳)が運転席ドアを開けるなどして逃走を阻止しようとしたため、被告人は逮捕を免れる目的で、店長が運転席ドアや車体をつかんでいるにもかかわらず、あえて自動車を発進させ時速約20キロメートル近くまで加速し、店長を振り切るように地面に転倒させた。店長はこの暴行により、加療約2週間を要する右手掌擦過創等の傷害を負った。 本件は、窃盗犯人が逮捕を免れるため被害者に暴行を加え傷害を負わせたもので、刑法240条前段・238条の事後強盗致傷罪に問われた事案である。事後強盗致傷罪は法定刑の下限が懲役6年と重く、通常は実刑となる類型であるが、被告人は事実関係を認めており、量刑判断が中心的な争点となった。検察官の求刑は懲役6年であった。 【判旨(量刑)】 札幌地方裁判所は、被告人を懲役3年に処し、5年間刑の執行を猶予した上で、猶予期間中保護観察に付する判決を言い渡した。 まず犯行態様については、被害者が運転席ドアを開けドアと車体との間に挟まれる状態でドアや車体をつかんでいたにもかかわらず、自動車を発進・加速させて振り切るように転倒させた行為は、被害者に大怪我をさせるおそれのある危険で悪質な行為であると評価した。もっとも、幸いにも傷害の程度は加療約2週間にとどまり、万引きによる被害額も高額とはいえないことから、自動車を使用した事後強盗の中ではやや軽い事案であり、執行猶予の可能性もあるとした。 被告人には万引きを含む複数の前歴があり、本件の約1年半前には万引きで罰金刑に処せられていたにもかかわらず、ためらうことなく手慣れた手口でたばこを万引きしており、窃盗に対する抵抗感が乏しかった点は悪い事情として指摘された。 他方、被告人は初めての正式裁判を通じて罪の重さやギャンブル等の生活上の問題点を強く意識し、事実関係を認め被害者に謝罪していること、勤務先社長による金銭管理により被害弁償金が一定額準備されており今後の弁償が相当程度見込まれること、同社長が今後も雇用と金銭管理を継続する旨誓い、母親も被告人を同居させて生活面を監督する旨述べていることから、一人暮らしで生活が乱れていた犯行当時に比べ更生環境が一定程度整えられたと認定された。 裁判所は、これらの事情を総合し、社会内で更生する機会を与えるのが相当としつつ、再犯防止と更生環境の強化のため保護観察付執行猶予が必要であると判断した。刑法240条前段の法定刑下限を酌量減軽(刑法66条、71条、68条3号)により下回る懲役3年を言い渡した点に、本判決の特徴がある。