損害賠償,同反訴請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、ニット製品の卸売業者である一審原告会社と、ニット製品の製造販売業者である一審被告との間で、商談が破談に終わったことをめぐって提起された本訴・反訴の控訴審である。一審原告会社は、長年取引関係にあったアパレル関連の取引先(三澤、ザンパ)に対し、一審被告が製造したニット製品を供給する話を進めていた。商談の過程で、三澤向けの4品番およびザンパ向けの2品番について、デザイン指示書や発注書のやり取り、単価や寸法の調整が行われたが、一審被告は平成27年7月2日、一方的な取引条件を押し付けられていると感じ、一審原告会社に受注を拒絶する旨のメールを送信し、商談は事実上決裂した。 また、一審被告は強度の耐水性・耐洗濯性を有する和紙糸を用いた独自の製造方法(本件製造方法)を開発し保有していたところ、商談決裂後、一審原告会社が同じ糸商から本件和紙糸の供給を受けて三澤向けに抄繊糸使用のニット製品を製造・供給したことが判明した。 一審原告会社は本訴で、商談の破談による手数料報酬・代替生産費用・逸失利益等約364万円の支払等を求め、一審被告は反訴で、本件製造方法の営業秘密該当性を前提とする損害賠償約152万円、および本訴請求拡張を不当訴訟とする損害賠償300万円等を求めた。原審は一審原告会社のザンパ向け2品番に関する契約締結上の過失を一部認め約22万円を認容し、その余を棄却したところ、双方が控訴した。 【争点】 第一に、本件4品番および2品番の商品について、準問屋契約ないし製造物供給契約が成立していたか、仮に成立していなくとも契約締結上の過失による損害賠償責任が生じるか。第二に、本件製造方法の情報が不正競争防止法上の営業秘密に該当し、一審原告らによる不正使用があったか。第三に、本件請求拡張が不当訴訟として一審被告に対する不法行為を構成するかである。 【判旨】 大阪高裁は、まず準問屋契約および製造物供給契約について、単価・寸法等の基本条件の詰めが未了であり、一審被告は平成27年7月2日に明確に受注拒絶の意思を表示していることから、いずれも成立していないとした。契約締結上の過失については、契約交渉当事者には契約を締結しない自由があることを前提に、信義則上の義務を負う場面を、相手方の信頼を誘発する態度を示した場合、または契約締結交渉が大詰めに至り相手方が契約成立の期待権を有するに至った場合に限定した上、本件では発注書発行から1〜2週間後には明確に受注拒絶がなされており、その後のやり取りを見ても一審原告会社が契約成立の期待権を有するに至ったと評価することはできないとして、一審被告の信義則上の義務違反を否定した。原審がザンパ向け2品番について一部認容した部分は取り消され、同請求も棄却された。 営業秘密侵害の点については、本件製造方法の情報は営業秘密に該当しないか、または一審原告らが示されたり使用したりした事実が認められないとして、一審被告の反訴請求を棄却した原審の判断を維持した。 本件請求拡張の不当訴訟該当性については、不当訴訟に当たるのは、提訴者の主張する権利または法律関係が事実的・法律的根拠を欠き、かつ提訴者がそのことを知り又は容易に知り得たのに敢えて訴えを提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らし著しく相当性を欠く場合に限られるとする最高裁昭和63年1月26日判決の基準を踏襲し、契約締結上の過失の該当性は明文規定のない規範的判断であり、弁護士であっても根拠を欠くことを容易に知り得たとはいえないとして、不法行為性を否定した。 本判決は、商談段階における契約締結上の過失の成立範囲を厳格に画し、受注拒絶が明確に表明された以上、その後の一部対応があっても信頼誘発には当たらないとした点に、取引実務への実践的意義がある。