怠る事実の違法確認等(住民訴訟)請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30行コ75
- 事件名
- 怠る事実の違法確認等(住民訴訟)請求控訴事件
- 裁判所
- 大阪高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年2月1日
- 裁判官
- 山下郁夫、杉江佳治、後藤慶一郎
AI概要
【事案の概要】 本件は、H市の住民である控訴人らが、H市の執行機関である市長(被控訴人)を相手取り、地方自治法242条の2第1項3号(怠る事実の違法確認)及び4号(損害賠償請求等を行うよう求める請求)に基づいて提起した住民訴訟の控訴審である。 問題となったのは、H市が実施した市立市民会館別館2階ホール増築他建築工事に係る事後審査型制限付一般競争入札(本件入札)である。この入札にはF株式会社、株式会社G及び補助参加人の市内業者3社のみが応札し、うち2社は予定価格を上回る金額で、Fは予定価格と同額(落札率100%)で応札した結果、Fが受注した。 控訴人らは、①上記3社間で受注予定者をFとする談合が行われた、②H市長A、副市長B及び市職員C・Dは談合を知りまたは知り得たのに入札を続行した、③Aら及び職員Eは工事中に建築基準法の遡及適用により追加工事が必要となることを隠して入札・議会議決を経て原契約を締結し、後に変更契約を締結せざるを得なくなった、と主張した。そして、これら一連の不法行為により、適正な入札が行われた場合の代金額との差額5594万4000円の損害をH市が被ったにもかかわらず、被控訴人がその損害賠償請求権の行使を違法に怠っていると主張し、請求権行使の義務付けと怠る事実の違法確認を求めた。 原審(大阪地裁)は控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らが控訴した。 【争点】 主たる争点は、(1)Fほか2社の間に談合があったか、(2)市長・副市長・職員らが談合を知りまたは認識可能であったのに入札続行したことが違法か、(3)追加工事の必要性を認識しながら原契約のみで議会議決を得たことが違法か、である。 【判旨】 大阪高裁は控訴をいずれも棄却した。 談合の有無については、入札参加資格を満たす市外業者が86社存在し、市外業者の参加が困難であった事情はなく、市内3社のみの応札という結果だけでは談合を裏付けない。当時は東日本大震災復旧事業等により資材価格・人件費が高騰し、予定価格を上回る応札や入札不調が相次ぐ状況にあり、予定価格が経済実勢を反映していないことを表明する趣旨であえて予定価格超で応札することにも一定の合理性がある。またFの落札率100%についても、見積価格が予定価格と拮抗する中で収益確保のため予定価格と同額での落札を狙うことは経済的に合理的であり、談合の証拠とはいえないと判断した。 本件要綱8条に基づく入札中止義務についても、競争入札心得は予定価格超の応札者を失格とするのみで入札参加自体を否定する趣旨ではなく、参加者は3者であったから中止要件に該当せず、開札結果として有効応札者が1名にとどまったにすぎないと判示した。 追加工事の点については、本件入札実施時には大阪府指定確認検査機関が遡及適用範囲を排煙区画工事のみとする見解を示しており、設計業者もこれを前提に設計内訳書を作成していた。本館と別館に分かれる複雑な案件で遡及適用範囲が明白とはいえず、職員Eが追加工事の必要性を認識していたとも認識可能であったとも認められない。また追加工事が判明した後も、①追加工事のみ別入札とすれば別業者による施工となり不合理、②原契約を解除して再入札すれば開館予定に影響するため、原契約締結後に変更契約で対応する方法には相応の合理性があり、議会運営委員会・特別議会で必要な説明と議決を経ていることからすれば、議会に対する報告義務違反も認められないとした。 以上より、不法行為に基づく損害賠償請求権の存在自体が認められず、被控訴人に怠る事実はないとして、原判決を維持した。本件は住民訴訟における4号請求の要件である実体的損害賠償請求権の存在立証の困難さを示すとともに、公共工事入札結果の特殊性を直ちに談合認定に結び付けることの慎重さを示した事例といえる。