AI概要
【事案の概要】 本件は、防衛大学校に2学年時まで在校した後に退校した原告が、同校の在校中に学生であった被告ら7名から、暴行、強要、いじめ等の行為を受けて精神的苦痛を被ったとして、不法行為又は共同不法行為に基づき、合計1400万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 原告は平成25年4月に防衛大に入校したが、1学年時に同室の副室長であった被告Aから、下級生の落ち度を点数化する「粗相ポイント制度」の下で罰ゲームとしてカップ麺を硬いまま食べさせられたり、陰毛に消毒用アルコールを吹きかけてライターで着火される行為を受けた。また、自習時間中の携帯電話使用を契機として、約2週間にわたり連日、睡眠時間を大幅に削る形で反省文の作成・提出を繰り返し命じられた。同室となった3学年の被告Bからは、上級生を起こさなかったことを理由にボクシング部主将である被告Bから左拳で頬を殴打され、さらに約2か月にわたり複数回、掃除機で陰部を吸引する行為を受けた。 2学年に進級後、原告は特別外出の許可内容と異なる行動を取って服務規律違反の処分を受けたが、これを契機として中隊学生長であった4学年の被告Cから平手打ち、拳による腹部殴打、足蹴り等の暴行を受け、机やタンス等を荒らす「飛ばし行為」も受けた。同期生の被告D及び被告Eからは、服務事故の説明をめぐって胸を殴打され、胸倉をつかまれて名札を剥ぎとられそうになる等の暴行を受けた。さらに療養中、同室の被告Fが原告の写真を遺影のように加工した工作物に吹出しを付けて撮影しLINEグループに誤送信したうえ、被告Gが他のメンバーを強制退会させた状態で短時間のうちに嘔吐や藁人形等の絵柄のスタンプ約724個を送り続けた。なお3学年の被告Hからは、原告が処分について「表彰される」と表現したメッセージを送信したこと等について注意を受けた際、ロッカーを揺すられ声を荒げられる行為を受けた。 【争点】 各被告による行為が学生間指導の範囲を超えて不法行為に該当するか、国家賠償法1条1項により公務員である被告Hが個人責任を免責されるか、原告の損害(慰謝料額)、被告Bの弁済供託による債務消滅の可否が争われた。被告らはいずれも自らの行為が防衛大における学生間指導の一環であり違法性を欠くと主張し、原告は集団的ないじめであり体調悪化との因果関係も認められるべきと主張した。 【判旨】 福岡地裁は、被告A、B、C、D、E、F、Gの各行為をいずれも学生間指導の範囲を逸脱した不法行為と認定した。被告Aの陰毛着火行為や反省文の執拗な作成指示は、指導の形式を取っていても下級生に過度の肉体的・精神的負担を与える違法行為であり、被告Bの殴打や掃除機による吸引行為は羞恥心や屈辱感を与える危険な行為で指導として正当化されないとした。被告Cの暴行・飛ばし行為は中隊学生長の立場を濫用したもの、被告D・Eの暴行は同期生間の指導の範囲外であるとした。被告F・Gの行為は指導と全く関連しない私的な非行・いじめ行為と位置付けられた。 他方、被告Hの呼出し注意行為については、指導事項自体は合理的で、ロッカーを揺すり声を荒げたことは不適切ながら損害賠償を基礎づけるほどの違法性はないとして不法行為の成立を否定した。さらに被告Hは、仮に不法行為が成立するとしても、学生間指導は幹部自衛官育成の要を成す防衛大生の職務であり、本件行為は客観的に職務執行の外形を備えるから、国賠法1条1項により国が責任を負い個人責任を負わないとした。 慰謝料額は、被告Aにつき40万円、被告Bにつき暴行行為15万円・陰部吸引行為10万円(暴行行為分は弁済供託により消滅し10万円)、被告Cにつき20万円、被告D・Eにつき連帯して15万円、被告F・Gにつき各5万円を認容し、被告Hに対する請求は棄却した。