AI概要
【事案の概要】 本件は、焼結機械部品メーカーである被告会社株式会社Aと、同社の代表取締役社長であった被告人乙が、不正競争防止法違反(品質等誤認惹起行為)に問われた事案である。被告会社は、自動車部品メーカー3社(C社・D社・E社)から、オイルポンプ部品、可変動弁部品、エンジン電装品といった焼結機械部品の製造を受注していたが、新潟事業所での抜き取り検査で、各社との間で合意した仕様を満たさない不適合品であることが判明したにもかかわらず、仕様を満たした旨の虚偽の検査成績表合計79通を作成し、不適合品合計54万9250個(販売総額約1億1779万円余)をあたかも適合品であるかのように装って納入した。 犯行の背景には、被告会社が焼結機械部品トップメーカーであった過去の技術力を過信し、設備更新・メンテナンスを怠ったことによる歩留まり率の低下と損益悪化がある。納期最優先の受注体制の下で、後追い検査や未検査、検査成績表の改ざんが古くから常態化していた。平成28年8月の先行事案発覚後、親会社F社の指導で全数選別等の再発防止策が導入されたが、検査能力不足と設備老朽化による不適合品頻発で破綻した。被告人乙は、品質管理責任者から改ざん再開やむなしとの相談を受けた際、親会社への報告が被告会社の再建頓挫を招くことを恐れ、自助努力による改善を図るまでの当面の方策として、顧客や親会社に実態を伏せて不適合品出荷と検査成績表改ざんを続ける方針を決定し、部下に指示して本件犯行を約1年にわたり敢行させた。 【争点】 弁護人は、本件の実態を知って直接関与していたのが被告会社の上層部のみであったことを理由に、会社ぐるみの組織的犯行とはいえない旨を主張した。これに対し裁判所は、工程能力の限界から不適合品が続発する中で検査成績表の改ざんが古くから常態化していた被告会社において、先行事案発覚後も実態を隠蔽して顧客との取引を維持継続するため、被告人乙を頂点とする最高幹部らが指揮・容認し、管理職員らに実行させた犯行であるとして、組織ぐるみの犯行であることは明らかと判断した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、本件を多額の利得を伴う大規模かつ常習的な詐欺的犯罪と位置づけた。不適合品である焼結機械部品は、最終的に自動車に組み込まれて走行の安全性・機能性を保持する不可欠な部品であり、自動車の安全性を著しく害するおそれを広く生じさせ、我が国製造業全体への信用失墜や顧客の代替部品調達・リコールリスクまで招来した点で、結果の重大性を強く指摘した。また、被告会社が仕様対応能力がないにもかかわらず能力があるかのように偽装して受注を継続し、同業他社との公正な競争を現実に害した点も重視した。 被告人乙については、親会社から再建のため送り込まれた社長でありながら、親会社キーパーソンとの親密な関係を生かして窮状を腹蔵なく伝え、根本的解決への支援を仰ぐという経営トップにしかできない決断を避け、問題隠蔽のため不正な手段を用いて取引と利益を維持しようとした姿勢を厳しく非難した。他方、内部通報による発覚後、親会社の全面支援の下で顧客への報告・安全性検証・費用負担、検査体制のダブルチェック化、構造改革室・ものづくり改善室の設置等、網羅的な再発防止策が実行されていること、被告人乙を含む幹部への退任・降格・報酬返納等の処分がなされたこと、ISO・JIS認証の一時停止や約30億円弱の損失、被告人乙自身も取締役・顧問職を退任し相応の社会的制裁を受けたこと、両名に前科なく反省の態度を示していること等を酌むべき事情として考慮した。 以上を総合し、被告会社については犯情の重さ・悪影響の大きさ・常習性、被告人乙については経営者としての責任の重大さに照らし、検察官求刑から減刑すべき事情は見出せないとして、不正競争防止法21条2項5号・22条1項3号(両罰規定)を適用し、被告会社を罰金5000万円、被告人乙を罰金200万円(労役場留置1日1万円換算)にそれぞれ処した。本判決は、製造業における品質データ偽装が問題化する中、企業トップの経営判断の適否と両罰規定の運用を示した事例として実務上の意義を有する。