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【事案の概要】 本件は、特許無効審判における特許庁の審決に対する取消訴訟である。被告が有する「美容器」に関する特許(特許第5847904号、請求項1・2)について、原告が平成29年8月1日に無効審判を請求したところ、特許庁は平成30年3月29日に「本件審判の請求は、成り立たない」との審決をした。これを不服とする原告が本件審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に出訴した。 本件特許の対象は、基端がハンドルに抜け止め固定された支持軸と、その先端側に回転可能に支持された回転体(ローラ)を備え、回転体を身体上で転動させることにより美肌効果等の美容的作用を付与する美容器である。特徴的な構成として、回転体は基端側にのみ穴を有する「非貫通状態」で支持軸に支持されており、回転体と支持軸との間に介在する軸受け部材からは弾性変形可能な「係止爪」が突き出て、回転体内周の段差部と係合することで回転体が抜け止めされる構造を有する。 原告は、欧州特許出願公開第0674894号(引用例1)記載のマッサージ器を主たる引用発明とし、これに米国特許出願公開第2010/191161号記載のラッチアーム構造(甲3技術)、ベアリングで非貫通状態にローラを支持する甲4・甲5記載の美容ローラ、スナップフィット設計に関する工学的文献(甲6)等を組み合わせれば、本件発明は当業者が容易に想到できたものであって、進歩性を欠くと主張した。 【争点】 本件発明1と引用発明1との間には、(1)係止爪の弾性変形可能性および斜面の有無に関する相違点2と、(2)回転体が基端側にのみ穴を有する非貫通状態か否かに関する相違点3が存在し、これらについて容易想到性が認められるかが争点となった。また、本件発明2(軸受け部材が合成樹脂製であることを限定)の進歩性も争われた。 【判旨】 知財高裁第1部は、原告の請求を棄却した。 相違点2について、裁判所は、引用発明1の「鞘3」に設けられた隆起10はマッサージローラ内周の凹部と全周連続的に係合するアニュラロック型のスナップ結合であるのに対し、甲3のプラグ200・220のラッチアーム204は、それ自体がモジュール同士を固定する部材であって、回転体を軸に対して回転自在に支持する軸受け部材ではないため、そもそも鞘3をプラグに置き換える動機付けがないと判断した。また、甲3ではロックピン240を挿入してラッチアームの離脱を防止する設計思想が採られており、非貫通状態の回転体を支持することは想定されていないこと、両方の部材に弾性を持たせるスナップ結合構造は周知技術とはいえず、係合力が弱まり外れやすくなる不都合があることを理由に、甲6を踏まえても容易想到性は認められないとした。 相違点3については、引用発明1の本質的課題が「顔のマッサージにおいて、突起した身体部分に怪我の危険なく近接させる」点にあり、マッサージローラが柔軟に変形する弾性材料で形成され中空ローラ構造とされることはこの課題解決に不可欠の構成である。ローラを非貫通状態(先端閉塞)にすると先端部の柔軟性が損なわれるため、たとえ非貫通状態のローラ構造が技術常識として存在したとしても、これを引用発明1に適用する動機付けはなく、むしろ阻害要因があると判断した。 本件発明2は本件発明1を限定するものにすぎないから、本件発明1について無効とし得ない以上、本件発明2についても審決の判断に誤りはないとされた。進歩性判断における動機付け・阻害要因の認定方法、とりわけ主たる引用発明の課題・技術的意義が副引用例の適用を阻害する事例として、実務上参考となる判断である。