AI概要
【事案の概要】 本件は,インクジェットプリンター用のインクカートリッジICチップに関する特許出願について,特許庁が拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決に対し,出願人である中国法人(珠海艾派克微電子有限公司)が取消しを求めた事件である。 本願発明は「インクカートリッジICチップの制御方法,インクカートリッジICチップ及びインクカートリッジ」に関するものであり,優先日は平成24年11月22日(中国出願),我が国への特許出願は平成25年9月6日にされた。発明の背景となる技術分野では,インクジェットプリンターにおいてインクカートリッジが正しい位置に装着されているかを検出するため,カートリッジ上の光源を発光させ,プリンター内部の受光部で光量を計測する方式が用いられている。しかし,製造上の誤差により隣接カートリッジの発光量が検出対象カートリッジの発光量と同等以上になる可能性があり,正しい装着状態であるにもかかわらず装着不良と誤認されて誤報率が高まるという課題があった。 本願発明はこの課題の解決を目的とし,請求項1においては,「インタフェースユニット」と「制御ユニット」を含むICチップであって,制御ユニットがインタフェースユニットで光制御指令(発光指令と消光指令を含む)を受信した際に,ICチップの状態(実行可能な状態・実行不可能な状態)に応じて光制御指令を実行するか否かを制御するという構成を規定している。 特許庁は,請求項1では実行可能な状態・実行不可能な状態と,光制御指令の実行・不実行との対応関係が特定されておらず,発明の課題を解決するための手段が反映されていないとして,特許法36条6項1号(サポート要件)違反を理由に拒絶査定を維持する審決をした。原告はこの審決の取消しを求めて出訴した。 【争点】 本願発明1がサポート要件(特許法36条6項1号)に適合するか否かが争点となった。具体的には,請求項1に記載された「ICチップの状態に応じて光制御指令の実行を制御する」との文言が,発明の詳細な説明に記載された課題解決手段を適切に反映しているかが問題となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は原告の請求を棄却した。 サポート要件の判断枠組みとして,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されたもので,当業者が発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものか,または出願時の技術常識に照らして課題を解決できると認識できる範囲のものかを検討して判断するのが相当であるとした。 その上で裁判所は,本願明細書の記載を検討し,正対位置検出時には検出対象カートリッジおよび発光可能な他のカートリッジを発光させた後に消光し,隣接光検出時には既に実行不可能な状態となったカートリッジの発光をカットすることで,誤報率を減らすという課題解決手段が読み取れる実施例(段落0020,0024,0084〜0091)が存在することを認めた。しかし請求項1の記載は,ICチップが実行可能な状態または実行不可能な状態のそれぞれにおいて,光制御指令をどのように実行するか制御するのかが特定されておらず,上記実施例の構成に限定されていない。また,実施例のうち段落0084・0095(図5・図10)では,消光指令については発光標識部の状態にかかわらず実行される構成が記載されており,請求項1の文言を一義的に解釈することもできない。 そのため,本願発明1は,発明の詳細な説明の記載および本願出願日当時の技術常識によって課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであり,特許法36条6項1号のサポート要件に適合しないと判断された。原告主張の審決取消事由は理由がなく,請求は棄却された。 本判決は,機能的・抽象的な表現で記載された請求項において,発明の詳細な説明に具体的な実施例が存在していても,請求項の文言がその実施例に限定されず広範に及ぶ場合にはサポート要件違反となることを示した事例として,特許実務上参考となるものである。