AI概要
【事案の概要】 本件は、阪神・淡路大震災の被災者向けに供給された借上公営住宅(市営住宅)の明渡しをめぐる事案である。神戸市(原告)は、平成8年1月、独立行政法人都市再生機構の前身にあたる住宅・都市整備公団から、借上期間を20年とする条件で本件建物を借り上げ、当時51歳で自宅マンションが全壊した被告(昭和▲年生まれの女性)に対し、同年3月から市営住宅として本件居室への入居を許可した。被告は以後約20年間にわたり本件居室に一人で居住し、生活の基盤を形成してきた。 借上期間の満了日は平成28年1月30日とされていたところ、原告と公団の間で延長合意はなされず、原告は平成27年6月、被告に対し借上期間満了による明渡しを求める旨を通知した。しかし被告は、高齢であり頚椎後縦靭帯骨化症等の持病を抱え、転居による身体的・精神的負担が大きいこと等を理由として明渡しを拒み、本件訴訟に至った。原告は主位的に公営住宅法32条1項6号(借上期間満了による明渡請求)を根拠として、予備的には転貸借契約の終了を根拠として、本件居室の明渡し及び借上期間満了日翌日以降の賃料等相当損害金の支払を求めた。 【争点】 主な争点は、(1)平成8年改正前に供給された借上住宅の入居者に改正後の新法(借上期間満了による明渡請求制度)が適用されるか、(2)公営住宅法25条2項所定の通知(借上期間満了時に明け渡さなければならない旨の事前通知)が、同32条1項6号に基づく明渡請求の要件であるか、(3)原告の明渡請求が禁反言の法理違反・権利濫用に当たるか、(4)社会権規約11条・12条及び憲法13条・25条に反しないか、である。 【判旨】 神戸地方裁判所は、原告の請求を全部認容し、本件居室の明渡し及び賃料等相当損害金の支払を命じた。 第一に、附則5項の趣旨について、同項は特定借上・買取賃貸住宅制度の下で供給された住宅も新法の下に統一化することで管理事務の効率化を図る趣旨であり、文言上も法7条ないし10条及び17条のみを除外することが明確であるとして、平成10年4月1日以降は本件居室についても新法(借上期間満了による明渡請求の規定を含む)が適用されるとした。応納応益家賃制度により被告の賃料負担が軽減されていること等からも、新法の遡及適用が著しく不利益をもたらすとはいえないと判示した。 第二に、法25条2項の通知については、同条項は入居者が退去時期を予測できるよう配慮する趣旨にとどまり、法32条1項6号が想定する建物所有者保護の趣旨とは別個のものであって、明文上も明渡請求の要件とはされていないとして、同通知の懈怠は明渡請求を妨げないと判断した。定期建物賃貸借における説明書面交付(借地借家法38条2項・3項)との対比についても、借上公営住宅は20年という長期の入居可能期間が保障されており状況を異にするとして、被告の主張を退けた。 第三に、権利濫用の主張については、原告が半径1km圏内に多数の市営住宅を保有し、公募によらない他の公営住宅への入居、移転料支給、要介護3以上等の場合の継続入居など、入居者保護の政策を講じていることを踏まえ、被告の身体的・精神的負担は相当程度軽減されているとして、権利濫用には当たらないとした。社会権規約については自力執行力を否定し、憲法違反の主張も健康被害のおそれが高いとはいえないとして退けた。