違約金等支払請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成29ネ574
- 事件名
- 違約金等支払請求控訴事件
- 裁判所
- 名古屋高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年2月7日
- 裁判官
- 戸田久、朝日貴浩、髙橋信幸
- 原審裁判所
- 名古屋地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、家電量販店である控訴人(X社)が、名古屋駅前で建設中の大型複合ビル(地下6階付き46階建て、総床面積約25万㎡、いわゆるJRゲートタワー)に出店するため、ビルの所有・管理を担う被控訴人(A鉄道の完全子会社)との間で定期建物賃貸借の予約契約を締結し、予約金約8億3099万円を預託したところ、ビルの開業時期が当初予定の平成28年春から平成29年4月に約1年遅延したことを理由に、控訴人が予約契約を解除したとして、不当利得返還請求権に基づき予約金の返還及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 本件ビルは、被控訴人及びその親会社A社が名古屋駅新ビル計画に基づき建設したもので、出店者選定においてはプロポーザル方式が採用され、控訴人が選ばれた。平成25年2月に締結された予約契約書の前文及び2条には「平成28年春に開業予定の」名古屋駅新ビル(仮称)との文言が記載されていた。しかし、平成25年11月、建設工事中のコンクリート打設作業において杭孔内壁が崩落する事象が発生し、A社社長の記者会見で開業が半年以上遅れる旨が発表された。さらに平成26年2月には、開業時期が平成29年4月となることが発表された。控訴人は被控訴人に対し開業遅延による損害賠償・金銭的補償を求めたが、被控訴人は法的義務はないと回答し続けた。平成27年2月9日、控訴人は目的達成不能を理由として予約契約解除の通知を発した。原審は控訴人の予約金返還請求を棄却したため、控訴した。 【争点】 主たる争点は、①被控訴人の債務不履行を理由とする解除の可否(予約契約書の「平成28年春開業予定」の文言が賃貸借目的物の品質・性能を特定し、同時期に本契約を締結する行為債務を被控訴人に課すものといえるか)、②瑕疵担保責任(民法566条1項・570条の準用)を理由とする解除の可否、③予約契約14条1項所定の不可抗力事由による約定解除権行使の可否、である。 【判旨】 本件控訴を棄却。 まず主位的主張について、「予定」の語は変更可能性を内包し、「春」という文言も品質・性能を特定するには曖昧であり、8億円超の予約金返還及び同額の違約金請求という重大な法的効果を生じさせ得る契約書に不明確な文言を用いることは通常考えにくい。また、契約書作成経緯をみても、当初の修正提案に対し被控訴人側が「平成28年春に開業予定」と再修正した上で「現時点のスケジュールでは平成28年春の開業を予定しています」との付記を加えており、被控訴人が開業時期について法律上の責任を負う趣旨で合意したとは認められない。したがって、被控訴人が平成28年春開業予定のビル区画という特定物を供して約2年間のうちに本契約を締結する行為債務を負うとの合意があったとは認められない。 予備的主張の瑕疵担保責任についても、同様に前提となる行為債務が認められないから理由がない。 約定解除権については、本件崩落による約1年間の工期延伸は契約14条1項1号の「土壌汚染や埋設文化財等の判明」に該当せず、ビルの構造や仕様自体が変更されたわけでもないから「計画どおりの新ビル建設が困難」とも認められず、同項4号の準ずる事由にも該当しない。 かえって、控訴人が本件解除通知後も被控訴人側からの面会要請を拒絶し本契約締結を拒否する意思を明確にしたことから、遅くとも平成27年3月6日時点で契約15条1項4号の解除事由が生じ、被控訴人による解除は有効であり、予約金は違約金として確定的に充当されたと結論付けた。大規模商業テナント誘致における開業時期遅延リスクの契約上の取扱いについて、明文による離脱条項の必要性を示唆した実務的意義ある判断である。