殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、当時19歳の現職警察官であった被告人が、勤務中に携帯していた回転弾倉式けん銃を用いて、指導役の上司にあたる同僚警察官(当時41歳の巡査部長)を射殺した殺人および銃砲刀剣類所持等取締法違反の事案である。 被告人は平成29年4月に滋賀県警察官に任官し、警察学校を卒業後、彦根市内の警察署に赴任、平成30年3月26日からは同署管内の交番に配置され、被害者ら2名の警察官と共に勤務していた。被告人は、職務上作成する書類の細部について被害者から繰り返し訂正の指示を受けるなど、指導・注意を受けることが続いていた。被告人は自信を失って適性がないとの劣等感を強める一方、高校卒業後に念願かなって就いた警察官の職をここで失うことへの抵抗も強く、自尊心にとらわれたまま退職の選択もできず、次第に被害者の指導が理不尽ではないかとの反感を募らせていった。 平成30年4月7日にもう1名の相勤警察官が入院し、当面被害者と二人きりで勤務する機会が増える状況となり、被告人は暗澹たる心境に陥っていた。そして同月11日、通報先の現場で被害者の指示を果たせず交番で厳しく叱責された被告人は、「お前の出来の悪さは親のせいか」などとなじられたことをきっかけに被害者への反感を一気に強め、殺害を決意した。同日午後7時47分頃、パソコン操作中の被害者の後方約1.7メートルの位置からけん銃を構え、後頭部および背部に計2発を発射して即死させ、さらにパトカーや徒歩で逃亡する間、けん銃1丁と実包3発を違法に携帯所持した。 【争点】 弁護人は、犯行時、被告人は適応障害等の精神面の不具合により意識狭窄や衝動性の抑制困難に陥り、善悪の判断能力および行動の統制能力がいずれも著しく減退した心神耗弱状態であった疑いがあると主張し、責任能力の程度が争点となった。 【判旨(量刑)】 裁判所は、精神鑑定・心理鑑定の結果を踏まえ、被告人に劣等感の強さ等に由来する意識狭窄、現実感の欠落、思考の硬直化、衝動抑制の困難等の症状が一部現れていたことは認めたものの、犯行前後の言動からは、周囲の状況認識が保たれ、殺傷能力の高いけん銃を的確に選択して2発を撃ち分けていること、殺害決意から約12分の間いったんけん銃を構えながら発射を思いとどまり休憩室で飲み物を飲む等の行動をとっていること、犯行後も交番を施錠し訪問者に整然と応対するなど深い思考を伴う所作が認められることから、これらの症状が能力を著しく減退させる程度には至っておらず、心神耗弱であったとの合理的な疑いを容れる余地はないと判断し、完全責任能力を認めた。 量刑について、裁判所は本件を「空前の、絶後となるべき重大な事案」と位置付けた。けん銃関連殺人の量刑傾向の中心を占める反社会的組織による事案と同視はできないが、職場の人間関係のもつれに起因する殺人類型に準じつつ、公の信託を受けて例外的にけん銃携帯を許された警察官がその信託に背き不正にけん銃を使用・所持した点で一段重い類型と位置付けた。突発的で計画性はないものの強い殺意に基づき至近距離から2発を撃ち込んだ危険・悪質な犯情、被害結果の重大性、被害者遺族の厳しい処罰感情等を考慮した。他方、新人警察官の指導養成体制が現場担当者の個性に依存する面があり、熱意を込めた被害者の指導が未熟で劣等感の強い被告人と噛み合わないまま感情がうっ積した経緯に一定の理解は示しつつも、同僚や家族への相談等による事態打開の余地があったこと、けん銃携帯の意義を教育されていた以上最終局面で警察官の本分を思い起こして思いとどまるべきであったことから、意思決定に対する非難は強いとし、求刑懲役25年に対し、懲役22年および未決勾留日数中190日算入の判決を言い渡した。