国家賠償等請求控訴,同附帯控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、平成22年11月4日未明、秋田市内の弁護士宅に財産分与事件で恨みを抱いた男が侵入し、自動装てん式けん銃、刃物、爆破装置、手錠等を携えて弁護士を殺害した事件につき、遺族である弁護士の妻、子3名、母が、①実行犯である被告Fに対して不法行為に基づく損害賠償を、②秋田県に対して国家賠償法1条1項に基づき、110番通報を受けて臨場した警察官両名の対応の違法及び事件後の県警による不適切捜査・虚偽説明を理由とする損害賠償を、それぞれ求めた事案である。 事件当日午前4時頃、被告Fは弁護士宅応接室のガラスを割って侵入し、主寝室で弁護士にけん銃を突きつけた。異変に気付いた妻が110番通報し、機動捜査隊の警察官両名が約6分後に臨場したが、警察官らは制服を着用せず、警棒や耐刃防護衣も携帯しなかった。臨場時、弁護士は被告Fからけん銃を奪って右手に握持していたが、警察官は侵入者と家人を識別する問いかけをしないまま、けん銃を奪おうと弁護士を制圧しようとした。この間に被告Fは応接室へ戻り刃物を持ち出し、弁護士を刺突して殺害した。 原審秋田地裁は、被告Fの不法行為責任を認めて一部認容する一方、県に対する請求はすべて棄却した。これに対し原告らが控訴、被告Fも控訴、原告らは附帯控訴した。 【争点】 主たる争点は、①被告Fによる刺突行為の態様、②臨場した警察官両名の過失の有無及び国家賠償法上の違法性、③県警の事後捜査・県議会答弁等の違法性である。 警察の規制権限不行使と国家賠償法1条1項の関係について、本判決は、警察官の権限行使が特定個人に対する個別の法的義務となるのは、㋐重大な法益への加害行為が切迫し、㋑警察官がそれを容易に知り得、㋒権限行使により結果回避が可能であり、㋓権限行使が困難でない場合に限られるとの判断枠組みを示した。 【判旨】 本判決は原判決を変更し、原告らの県に対する国家賠償請求を大幅に認容した。 警察官両名の対応につき、通報内容から住居侵入・殺人未遂の濃厚な嫌疑と生命身体への危険の切迫が明らかであったにもかかわらず、臨場後に家人と侵入者を識別する問いかけを怠り、けん銃を握持していた被害者弁護士を制圧しようとしたために被告Fに刃物を取りに戻る機会を与え、さらに侵入者を認識した後も被害者を台所や警察車両へ避難誘導せず、刃物を持った被告Fと直接対峙する事態を招いたと認定した。警察官両名が適切に権限を行使していれば弁護士殺害という結果は回避できた相当高度の蓋然性があったとし、臨場後の対応は「客観的にみて失態を重ねて最悪の事態を招いた」と厳しく評価した。加えて、警棒・耐刃防護衣の不携帯、臨場前の対処方針検討の欠如も問題視した。 結論として、警察官両名の権限不行使は国家賠償法1条1項にいう違法な公権力の行使にあたり、県は被告Fと連帯して損害賠償責任を負うとし、被告Fの殺害行為に基づく慰謝料・逸失利益等について、原告Aに7219万余円、子3名に各2997万余円、母Eに220万円の支払を命じた(妻に対する脅迫に係る固有慰謝料50万円は県の責任外とした)。他方、事後捜査の違法や県議会での虚偽説明については、犯罪被害者が捜査から受ける利益は反射的事実上の利益にとどまるとした最高裁平成2年2月20日第三小法廷判決を引用しつつ、隠ぺい意図や捜査の瑕疵は認められないとして原告らの主張を退けた。 本判決は、現場臨場した警察官の具体的対応の当否を詳細に検討し、県の国家賠償責任を正面から認めた点で、警察の初動対応の実務に重要な示唆を与えるものである。