損害賠償請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30受69
- 事件名
- 損害賠償請求事件
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判年月日
- 2019年2月14日
- 裁判種別・結果
- 判決・破棄自判
- 裁判官
- 池上政幸、小池裕、木澤克之、山口厚、深山卓也
- 原審裁判所
- 名古屋高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、三重県名張市の市議会議員である原告が、市議会運営委員会による厳重注意処分とその公表によって名誉を毀損されたとして、市に対して国家賠償法1条1項に基づき慰謝料等の支払を求めた事案である。 原告は市議会の教育民生委員会に所属していた。平成26年12月、教育民生委員長は、平成27年1月28日から30日にかけて岡山県倉敷市・岡山市・北九州市への視察旅行を行うことについて市議会議長の承認を得て、委員全員に出張命令が発せられた。しかし原告は、市の財政状況等に照らして視察旅行を実施すべきでないとの判断を記した欠席願を提出し、視察旅行を欠席した。 これを受けて議会運営委員会は、原告が名張市議会会議規則に基づく公務を正当な理由なく欠席し、地方自治の本旨及び同規則にのっとり議員としての責務を全うすることを定めた名張市議会議員政治倫理要綱2条2号に違反したとして、厳重注意処分を行う旨を決定した。市議会議長は、同日、議会運営委員会の正副委員長や、取材申入れをした新聞記者5、6名が同席する議長室において、議長名義の厳重注意処分通知書を朗読したうえで原告に交付した。 第一審は原告の請求を棄却したが、原審は、本件訴えは法律上の争訟に当たるとしたうえで、本件措置等は原告の社会的評価を低下させ、摘示事実の真実性や真実と信ずる相当な理由も認められないとして、国家賠償責任を一部認めた。 【争点】 地方議会が議員に対して行った厳重注意処分等について、議員の私法上の権利利益を侵害することを理由とする国家賠償請求の可否を判断するに当たり、裁判所の司法審査はどこまで及ぶか、とりわけ議会の自律的判断をどう尊重すべきかが争点となった。 【判旨】 最高裁は原審の判断のうち、本件訴えが法律上の争訟に当たるとの結論は是認したが、国家賠償責任を肯定した点は是認できないとして、原判決中市敗訴部分を破棄し、原告の控訴を棄却した。 まず、本件請求は私法上の権利利益の侵害を理由とする国家賠償請求であり、その性質上法令の適用による終局的解決に適しないとはいえないから、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たり適法であるとした。 そのうえで、普通地方公共団体の議会は地方自治の本旨に基づき自律的な法規範を有するものであり、議員に対する懲罰その他の措置については、議会の内部規律の問題にとどまる限り、その自律的な判断に委ねるのが適当であるとした最高裁昭和35年10月19日大法廷判決の趣旨を確認した。そして、このことは当該措置が私法上の権利利益を侵害することを理由とする国家賠償請求の当否を判断する場合でも変わるところはなく、措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り、議会の自律的判断を尊重してその当否を判断すべきであるとした。 本件措置は、議員の視察旅行欠席という議員としての行為に対する市議会の措置であり、要綱に基づくもので特段の法的効力を有するものではない。また、議長室での通知書朗読・交付も、殊更に社会的評価を低下させるような態様・方法での公表とはいえない。したがって、本件措置は議会の内部規律の問題にとどまり、その適否は議会の自律的判断を尊重すべきであって、国家賠償法1条1項の適用上違法とはいえないと結論づけた。 本判決は、地方議会による議員への懲罰等について、国家賠償請求という私法上の救済を求める場面でも、内部規律に関する事項については司法審査を抑制し、議会の自律性を尊重すべきことを明らかにした先例として実務上重要な意義を持つ。