承継参加申立控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、拡張現実(AR)技術に関する三つの特許権について、これらが自社の従業員による発明を第三者が無断で出願したものであるとして、特許法74条1項に基づき現登録名義人に対する特許権の移転登録手続を求めた事案である。 控訴人は、スマートフォン向けARコンテンツ提供システム「ARme」及びナビゲーション機能「ARnavi」を開発・販売していたIT企業である。控訴人の主張によれば、同社従業員は平成22年頃からAR技術を用いた情報提供システムの開発を進め、画像情報・位置情報(GPS)・近距離通信信号(Beacon等の識別情報)を組み合わせて適切なコンテンツを表示する仕組みや、複数のコンテンツを連続して再生する機能等を発明していた。 他方、脱退被告(原審被告)は、平成26年に控訴人とライセンス契約等を締結し、ARmeを基盤ソフトとして採用した上で、独自のARコンテンツサービスの開発を進めた。そして、平成27年6月及び同年12月、脱退被告を出願人として、AR技術に関する三つの特許(本件各特許)の出願を行い、特許権を取得した。その後、これらの特許権は訴訟係属中に被控訴人に譲渡され、被控訴人が承継参加した。 控訴人は、本件各特許に係る発明は自社従業員が先に行った発明であり、脱退被告による出願は冒認出願に当たると主張し、特許法74条1項に基づく移転登録手続を求めた。原審(東京地裁)は控訴人の請求を棄却したため、控訴人が本件控訴を提起した。 特許法74条1項は、平成23年改正により導入された制度であり、真の権利者が冒認出願等により登録された特許権の移転登録を直接求めることを可能にしたものである。それ以前は無効審判を経る必要があったが、本条項により真の発明者保護が強化された。 【争点】 本件各特許に係る各発明が、控訴人の従業員によって発明されたものと認められるか、すなわち本件各特許が冒認出願によるものに当たるかが中心的争点となった。具体的には、控訴人が主張する自社発明(ARme・ARnavi及びその機能群)の技術的内容が、本件各特許発明の特徴的構成(共通構成1~3)と同一と評価できるか否かが問題となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、本件控訴を棄却し、原判決を維持した。 裁判所は、本件各特許発明の内容をそれぞれ精査し、各特許発明に共通する中核的構成(共通構成)を抽出した。本件特許1については「画像情報・位置情報・識別情報の順の変化に応じて複数のコンテンツを提供する構成」、本件特許2については「現在位置がターゲット場所から所定距離内にあることを判定した上で第2起動情報を設定し、これを受信した場合にコンテンツを提供する構成」、本件特許3については「第1コンテンツとして場所紹介のビデオコンテンツを再生した後、シーケンシャルに第2コンテンツとしてナビゲーション用コンテンツを提供する構成」を、それぞれの特許発明の本質的な構成と認定した。 その上で、控訴人が自社発明として主張するARmeのロケーションベース機能、セカンドコンテンツ機能及びナビゲーション機能の内容を検討し、いずれも本件各特許発明の共通構成と同一のものとは認められないと判断した。例えば、ロケーションベース機能は特定場所で自動的にコンテンツが表示されるにとどまり、共通構成2のように二段階の起動情報判定を行う構成ではないこと、セカンドコンテンツ機能は複数コンテンツの連続再生を可能とするものの、先に再生するコンテンツの内容をビデオコンテンツに、後に再生するコンテンツをナビゲーションに特定する構成ではないことなどが指摘された。 さらに、控訴人が提出した各証拠についても、本件各特許出願前に作成されたことが明確でないものや、共通構成を開示していないものが多く、控訴人従業員による発明と認定するに足りないとした。 結論として、本件各特許発明は控訴人従業員が発明したものとは認められず、冒認出願には当たらないから、特許法74条1項に基づく移転登録請求は理由がないとして、控訴を棄却した。本判決は、冒認出願に基づく移転登録請求において、真の発明者と主張する側が、登録された特許発明の本質的構成を具備する発明を自らが先に完成させていたことを具体的に立証する必要があることを示した事例として実務的意義を有する。