遺族厚生年金不支給決定取消請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成28行ウ489
- 事件名
- 遺族厚生年金不支給決定取消請求事件
- 裁判所
- 東京地方裁判所
- 裁判年月日
- 2019年2月14日
- 裁判官
- 清水知恵子、進藤壮一郎、池田美樹子
AI概要
【事案の概要】 本件は、厚生年金保険の被保険者であったBが平成26年に死亡したことに伴い、Bの法律上の妻であったAが、厚生労働大臣に対して遺族厚生年金の給付を請求したところ、厚生年金保険法59条1項所定の「被保険者の配偶者であって、被保険者の死亡の当時、その者によって生計を維持したもの」に該当しないとの理由で不支給処分を受けたため、その取消しを求めた事案である。Aは訴訟提起後に死亡し、長男である原告が訴訟を承継した。 BとAは昭和33年に婚姻し長男である原告をもうけたが、BはAが昭和42年頃から試みた喫茶店経営等の事業失敗により連帯保証人として多額の債務を負うこととなり、Bの給与がAの借金返済に充てられる状況が続いた。Bは昭和51年頃に勤務先で補助参加人と知り合い、昭和52年頃から交際を始め、遅くとも昭和55年4月頃以降はAと完全に別居して参加人と同居するようになった。Bは昭和55年には家事調停でAとの離婚を求めたが、Aが期日に出頭せず不成立となった。その後Bは平成元年に住民票を参加人方へ移し、平成6年には参加人との共有名義でマンションを購入、平成20年には全財産を内縁の妻である参加人に包括遺贈する公正証書遺言を作成した。Bの死亡までAとの別居期間は約34年間に及び、参加人は遺族厚生年金の支給決定を受けた。 【争点】 争点は、重婚的内縁関係の下で法律上の妻であるAが、厚生年金保険法上の遺族厚生年金の支給を受けるべき「配偶者」に該当するか否かである。具体的には、BとAの法律上の婚姻関係が実体を失って形骸化し、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない「事実上の離婚状態」にあったといえるかが問われた。原告は離婚合意がない以上形骸化とはいえないと主張し、Bの原告口座への送金はAへの婚姻費用の支払であったとして経済的依存関係を基礎づけようとした。 【判旨】 東京地裁は、法律婚主義の下では原則として法律上の配偶者が支給を受けるべき「配偶者」に当たるが、例外として事実上の離婚状態にある場合には該当しないと解した上、別居の経緯・期間、婚姻関係の維持修復努力、別居後の経済的依存、音信訪問状況等を総合考慮すべきとした(昭和58年最高裁判決の枠組み)。 本件では、約34年間という同居期間の倍以上に及ぶ長期別居、Bが離婚調停を申し立て公正証書遺言で参加人に全財産を遺贈するなど婚姻関係維持の意思を一貫して欠いていたこと、Aも具体的な修復行動をとっていないこと、Bから原告口座への月額数万円の送金は原告口座の残高が常に貸越であり原告の生命保険料等の支払に充てられていたことから原告への経済的援助と認めるのが合理的で婚姻費用と同視できないこと、Aは自身の年金と原告の収入で生計を賄えていたこと、別居後の直接の接触は3回程度にとどまること、参加人との内縁関係は約34年間継続し対外的にも夫婦と認識されていたことなどを認定した。 これらを総合すれば、BとAの婚姻関係は実体を失って修復の余地なく形骸化していたから、Aは遺族厚生年金の支給を受けるべき「配偶者」に当たらないと判示した。また、離婚の合意が要件ではなく、婚姻関係維持・修復の意思を欠き関係が形骸化していれば事実上の離婚状態と評価し得るとして、原告の主張を排斥し、請求を棄却した。