AI概要
【事案の概要】 本件は,大津市立中学校2年生であった亡X(当時13歳)が,平成23年10月11日朝に自宅マンションから飛び降り自殺した事件について,亡Xの両親である原告らが,自殺の原因は同級生である被告少年ら3名(被告A1・被告B1・被告C1)から受けたいじめにあるとして,被告少年ら及びその親(被告父母ら)に対し,損害賠償を求めた事案である。本件はいわゆる「大津いじめ自殺事件」の民事訴訟であり,その後の「いじめ防止対策推進法」制定の契機となったことでも知られる。 亡Xと被告A1・被告B1は2年生でクラスメートとなって共通の趣味を通じて親しくなり,当初は対等な友人関係にあったが,2学期に入ると,被告A1・被告B1が転倒させた亡Xに馬乗りになって押さえ込む,肩を殴打する,下着が露出するほどズボンを下ろすなど,行為が次第にエスカレートしていった。これに別学級の被告C1が加わり,「いじる側」と「いじられる側」という上下関係が固定化された。9月末の体育祭では,じゃんけん罰ゲームと称して亡Xの手足を鉢巻きで緊縛し口にガムテープを貼る,蜂の死骸を口に乗せる,すねにガムテープを貼って剥がす等の行為が行われた。10月上旬には被告A1が亡Xの顔面を連日殴打し,同月8日には被告B1と被告C1が亡X宅を訪問して漫画本や腕時計を持ち去った。原告らは既に日本スポーツ振興センターから災害共済給付金2800万円,訴訟継続中に大津市と和解して1300万円を受領しており,残額の支払を求めた。 【争点】 主な争点は,①被告少年らによるいじめの有無・態様及び共同不法行為の成否,②被告少年らの行為と亡Xの自殺との相当因果関係の有無(自殺の予見可能性,家庭環境との関係),③被告少年らの責任能力の有無,④被告父母らの監督義務違反の有無,⑤損害額及び損益相殺の方法である。被告少年らは行為の相当部分を否認し,友人同士のふざけ合いや遊びの範囲内であると主張した。被告父母らは,子の問題行動を把握する契機がなく,具体的結果を回避すべき監督義務の違反はないと主張した。 【判旨】 裁判所は,被告A1及び被告B1について,個々の行為を個別に評価するのではなく,一連の行為の積み重ねが全体として亡Xに希死念慮を抱かせるに足りる孤立感・無価値感・無力感・絶望感を形成させたと認定し,両名相互の意思関与の下で共同された生命侵害行為として民法709条・719条に基づく共同不法行為が成立すると判断した。自殺の主たる原因は被告少年らの行為及びそこから形成された関係性にあり,家庭環境は自殺防止の観点から一要因として作用したにとどまるとして,行為と自殺との間に相当因果関係を認めた。他方,被告C1については,直接の加害行為が限定的で,被告C1が亡X宅で財物を持ち去った行為は自殺の直接の契機となり得るものの,準備状態の形成に被告A1・被告B1と同様の役割を果たしたとまではいえず,違法な生命侵害行為には該当しないとして責任を否定した。 被告少年らはいずれも中学2年生で責任能力を有していたと認定された上で,被告父母らの監督義務違反については,最高裁平成18年2月24日判決を引用し,日常的な監督義務の違反では足りず具体的結果を回避すべき監督義務の違反が必要であるとの規範を示した。本件では,被告父母らのいずれについても,子の亡Xに対する加害行為や両者の関係性を認識する契機があったとは認められず,具体的結果回避義務違反は認められないとして,親の責任はすべて否定された。なお被告B3については,そもそも被告B1に対する監督義務発生原因の主張立証自体がないとされた。 損害額については,亡Xの逸失利益3936万余円,死亡慰謝料2000万円,原告ら固有の慰謝料各300万円,葬儀費用各30万円を認め,原告ら各自の損害は3298万余円と算定された。既に受領した災害共済給付金及び大津市からの和解金について,元本・遅延損害金への充当関係を明確に示した上で,被告A1及び被告B1に対し,原告ら各自につき連帯して1878万余円及び遅延損害金の支払を命じ,被告C1及び被告父母ら全員に対する請求はいずれも棄却した。本判決はいじめ自殺について加害者少年らの共同不法行為責任を正面から認めた重要判決として広く注目された。