商標権侵害行為差止等請求事件
判決データ
AI概要
本件は、「moto」の文字商標(第14類「時計」を指定商品とする登録商標)を有する原告(モトデザイン株式会社)が、被告(株式会社三交クリエイティブ・ライフ。東急ハンズ名古屋店を運営)が販売するモトローラ・モビリティ製造のスマートウォッチ「moto 360」等に付された「moto」「moto 360」の各標章が原告商標と類似するとして、商標法36条1項に基づく販売差止めと、同法38条3項に基づく実施料相当額及び弁護士費用計約55万円の損害賠償を求めた事案である。 【事案の概要】 原告は、平成18年に登録された「moto」の商標権(第14類・時計)の権利者である。被告は、平成28年6月頃から平成29年2月までの間、被告店舗において、モトローラが製造した円形ディスプレイのスマートウォッチ「moto 360」シリーズを販売した(売上高約53万円)。同商品の文字盤中央やや上寄りには「moto」の標章が、背面には円形に沿って「moto 360」の標章が付されていた。 モトローラ側は、原告商標が3年以上不使用であるとして、2度にわたる不使用取消審判(平成27年及び平成29年)を請求しており、第二次不使用取消審判は平成29年6月23日に請求登録されている。本件は、こうした商標紛争の一環として原告が提起した侵害訴訟である。 【争点】 (1)原告商標と被告各標章の類否、(2)原告商標の指定商品(時計)と被告商品(スマートウォッチ)の類否、(3)モトローラ商標使用の抗弁の成否、(4)原告商標が不使用により取り消されるべきことを理由とする権利濫用の抗弁の成否、(5)損害額が争われた。 【判旨】 東京地裁は、まず商標の類否について、「moto」という文字標章がモトローラの略称として需要者間に広く認識されているとは認められないとして被告主張の「モトローラの」との観念の発生を否定し、被告標章2の要部は「moto」部分であると認定したうえで、原告商標と被告各標章は称呼・外観において一致し、類似すると判断した。 次に指定商品の類否について、被告商品は第9類の「情報処理用の機械器具」に該当し第14類「時計」そのものには当たらないとしつつ、スマートウォッチ市場に時計メーカーが続々と参入している実情、小売店やネット通販で腕時計と並べて販売されている状況、初期画面が時計表示であり主たる用途が時計として使用されること、需要者層が重複することなどを総合考慮し、被告商品は原告商標の指定商品のうち「腕時計」と類似すると認めた。モトローラ商標使用の抗弁については、モトローラ商標は原告商標より後願であり商標法4条1項11号に基づき無効にされるべきものであるから、これに基づく権利主張は権利濫用として認められないとした。 もっとも、権利濫用の抗弁については、原告がウェブサイト掲載・A社へのサンプル送付・ヤフーオークション出品などと主張した腕時計への商標使用行為は、画像に加工の疑いがあること、サンプル製造の客観的裏付けがないこと、商品説明や価格表示を欠くこと、従業員個人IDによる単発のオークション出品が営業活動として不自然であることなどから、いずれも実体を伴うものとは認められず、要証期間内に原告商標が「腕時計」について使用された事実はないと判断した。よって「腕時計」部分は不使用取消審判により取り消されるべきであり、残る指定商品「時計(腕時計を除く)」と被告商品は類似しないため、差止請求は権利濫用として許されないとして棄却した。 他方、損害賠償請求との関係では、商標権の消滅効果は審判請求登録日である平成29年6月23日にしか生じないため、それ以前の侵害期間(平成28年7月~平成29年2月)における損害賠償は認められるとし、使用料率を第14類の平均を下回る5パーセントと認定し、実施料相当額2万6743円に弁護士費用5000円を加えた計3万1743円及び遅延損害金の支払を命じた。 本判決は、スマートウォッチが第9類の情報処理機器に分類されつつも、市場の実情や需要者の認識において腕時計と類似商品と評価されうることを示した点、及び商標不使用を理由とする権利濫用の抗弁が差止めと損害賠償で別異に判断されることを明確にした点で実務上の意義がある。