損害賠償請求権行使請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 東京都の住民である原告らが、被告(東京都)に対し、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、小池百合子東京都知事に対する損害賠償請求権を行使するよう義務付けを求めた住民訴訟である。 舛添要一前知事は、平成27年7月17日、築地市場を平成28年11月2日に閉場し、豊洲市場を同月7日に開場する旨を表明していた。これは新市場建設協議会で市場関係者の意見を聴取した上で合意されたものであった。しかし、平成28年の東京都知事選挙では築地市場の移転問題が争点の一つとなり、候補者間でも意見が分かれていた。 同年7月22日頃までに、選挙運動中の小池候補は「一旦立ち止まって考える」との意見を公にしていた。同年8月2日に東京都知事に就任した小池知事は、同月30日までに都職員から6回にわたり豊洲市場への移転に関する説明を受けたうえ、同月31日、築地市場の閉場及び豊洲市場の開場を延期する旨を表明した。 その結果、東京都は平成28年11月16日から平成29年4月20日までの間に、築地市場の維持改良費として総額6197万6232円を支出することとなった。原告らは、移転延期の判断が合理的根拠を欠き裁量権を逸脱した違法なものであり、これに基づく支出命令も違法性を承継するとして、本件訴えを提起した。 【争点】 (1)適法な住民監査請求の前置があるか否か(本案前の争点)、(2)移転延期を内容とする小池知事の職務上の権限行使が裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法なものといえるか否か(本案の争点)が争われた。 【判旨】 請求棄却。 本案前の争点について、裁判所は、原告らが本件監査請求において、小池知事の移転延期の判断の違法性が本件各支出命令に承継される旨を十分に指摘しているから、地方自治法242条1項の要件を欠く不適法なものとはいえないと判断し、住民監査請求の前置を肯定した。 本案については、まず中央卸売市場の移転の日を定める権限は、明文の法令上の根拠がないことから、地方自治法148条に基づく地方公共団体の長の一般的権限に属するものと位置付けた。そのうえで、中央卸売市場の移転は、市場関係者・周辺住民ら多数の利害関係人の複雑な利害調整、経済的合理性、他の政策課題との先後関係等を総合考慮すべき相応の政治的判断を要する事項であるから、その時期の決定・変更についても地方公共団体の長の広範な裁量に委ねられているとし、判断の基礎とされた重要な事実に誤認がある場合や評価が合理性を欠き社会通念上著しく妥当性を欠く場合に限り違法となるとの判断枠組みを示した。 そのうえで、(1)卸売市場法上、市場関係者から意見を聴取すべき明文の法令上の義務はないこと、(2)移転の是非は都知事選挙の争点であり、小池知事は「立ち止まって考える」との意見を表明した上で当選しており、市場関係者も選挙を通じて意見を反映させる機会があったこと、(3)豊洲市場の安全性への疑念、費用増大、情報公開不足という延期理由も、これを支持する意見が公表されており、およそ不合理とはいえないことから、小池知事の権限行使が裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとは認め難いとした。 また、原告らが援用する最高裁昭和56年1月27日第三小法廷判決(民集35巻1号35頁)については、地方公共団体と第三者たる私企業との間で醸成された信頼関係に関する事案であり、加害者・被害者がいずれも東京都内部関係にある本件とは事案を異にするとして、同判決から小池知事の損害賠償責任を直ちに基礎付けることはできないと判示した。 結論として、小池知事の権限行使は違法ではなく、これを前提とする本件各支出命令も違法ではないから、東京都が小池知事に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとは認められず、原告らの請求はいずれも理由がないとして棄却された。