強盗殺人,傷害,窃盗,覚せい剤取締法違反被告事件
判決データ
- 事件番号
- 平成29わ633
- 事件名
- 強盗殺人,傷害,窃盗,覚せい剤取締法違反被告事件
- 裁判所
- 千葉地方裁判所
- 裁判年月日
- 2019年2月26日
- 裁判官
- 本田真理子
AI概要
【事案の概要】 本件は,被告人が共犯者Xらと共謀して常習的に自動車窃盗を繰り返していた中で発生した重大事件である。被告人は,平成25年2月20日にXと共謀して普通乗用自動車2台を窃取し(第1・第2事件),同月22日にはX及びYと共謀して月極駐車場で普通乗用自動車1台を窃取した。そしてその直後,同車を運転して駐車場から走行していた際,駐車場に隣接するアパートに居住していた被害者(当時31歳)が愛車を取り返そうと前方に立ちふさがったため,逮捕を免れ車両を確保するべく,被害者に車両を衝突させ,ボンネット上に乗り上げさせたまま時速約11キロから時速約40キロまで急加速し,さらに急制動をかけて被害者を路上に放出する暴行を加えた。被害者は頸髄損傷により6日後に死亡した(第3事件・強盗殺人)。このほか被告人は,単独で覚せい剤の自己使用(第5事件),アパート住人に対する傷害(第4事件,区分審理の部分判決で別途有罪)にも及んでいた。 本件は手続的にも特殊で,差戻前第1審(裁判員裁判)は,被告人ではなくXが被害車両を運転していた可能性を排斥しきれないとして強盗殺人の成立を否定し,窃盗の共同正犯にとどまると判断して懲役6年を言い渡していた。これに対し控訴審は,共犯者間でやり取りされた手紙(本件X書簡)の趣旨に関する事実認定に誤りがあるなどとしてこれを破棄し,千葉地方裁判所に差し戻した。本件はその差戻後の裁判員裁判である。 【争点】 争点は,被害車両運転者の殺意の有無,運転者が被告人であったか(犯人性)及び量刑である。被告人は,一貫して「運転していたのはXであり,自分は帯同車両の助手席に乗っていたにすぎない。捜査段階でいったん自白したのはXから手紙で身代わりになるよう指示されたからである」と供述し,犯人性を全面的に争っていた。 【判旨(量刑)】 裁判所はまず殺意について,自動車工学専門家Gの鑑定結果を信用できるとしたうえで,低速での衝突後にボンネット上にしがみつく被害者を認識しながら,わずか数秒で時速約40キロまで急加速し急制動をかけた行為は,被害者を振り落とす以外に説明が付かず,路面がアスファルトで住宅の塀が迫る状況下で,転落や轢過等により人が死亡する危険性が十分に高いことは明らかであるとして,未必の殺意を優に認定した。 犯人性については,共犯者X,Y及びHの各供述と,勾留中にX・被告人間でやり取りされた大量の手紙の解釈が核心となった。裁判所は,本件X書簡の「柏の件」等の記載は,一連の自動車窃盗の首謀者としての立場・役割を被告人にかぶらせる趣旨であって,強盗殺人の身代わりを依頼したものではないと認定。X書簡作成時点でX自身に強盗殺人罪追及の切迫した危険がなかったこと,被告人の返信にも窃盗の首謀者を引き受ける記載が縷々あること,被告人が手紙中で「間違ってでも人を殺めてしまっている」など自認に類する記載を随所でしていること,強盗殺人の身代わりという極めて重い負担を数百万円程度の見返りで引き受けるのは不合理であることなどを指摘し,X・Y・Hの各供述と被告人の捜査段階での自白の信用性をいずれも肯定して,運転者は被告人であったと認定した。 量刑では,被害者を車両で衝突させたうえボンネット上の被害者を振り落とした行為態様が,自らの利益のためには人を死亡させても構わないという生命軽視の姿勢の表れであると評価。被告人が手紙で「被害者が飛び出してこなければ死亡しなかった」などと身勝手な認識を吐露している点,窃盗未遂を含む累犯前科2犯を有し最終刑の執行終了後約1年3か月で本件に及んでいる点を重視した。他方で,自動車窃盗の首謀者はXであった点は被告人の犯情を特段軽減する事情にはならないとし,酌量減軽の余地はないとして,求刑どおり無期懲役(未決勾留日数中460日算入)に処した。