営業差止等請求,不正競争行為差止等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、女性専用パーソナルトレーニングジム「Shapes」を運営してきた控訴人(株式会社Shapes)と、そのフランチャイズ事業を手がけていた被控訴人(株式会社Shapes International)との間で争われた商標権の移転登録請求事件である。控訴人代表者Aは、平成7年頃から独自のトレーニング方法(「姿勢トレ」「Aメソッド」等)を開発し、平成18年にジム事業を開始した。控訴人は「Shapes」等について複数の商標登録(商標権7ないし10)を取得していたが、平成23年12月、被控訴人との間で本件事業に関する一切の営業権・知的財産を譲渡する営業譲渡契約(本件営業譲渡契約)を締結し、商標権7ないし10を被控訴人に移転した。 その後、被控訴人は、平成24年2月、独自に「Shapes」を含む商標1ないし3を出願し、同年7月に登録を受けた。ところが、被控訴人が顧問料の支払を怠ったため、控訴人は同年9月に本件営業譲渡契約を解除し、商標権7ないし10の移転登録抹消を求めて前訴を提起、これが認容された(ただし商標権7は不使用取消により抹消済み)。 本件は、控訴人が、被控訴人自身が譲受後に新たに出願・登録した商標権1ないし3についても、解除に基づく原状回復として移転登録を求めた第1事件の請求の一部について、原判決が棄却したことを受けて控訴した事案である。控訴人は当審において、事務管理に基づく権利移転請求(民法697条類推等)も選択的に追加した。 【争点】 争点は、(1)本件営業譲渡契約の解除に基づく原状回復として、被控訴人自身が新たに出願・登録した商標権1ないし3の移転登録請求権が認められるか、(2)事務管理に基づく取得権利移転として、同商標権の移転登録請求権が認められるかの2点である。控訴人は、商標権1ないし3は商標権7と実質的に同一ないし類似であり、被控訴人が商標権7の譲受人たる地位があったからこそ商標法4条1項11号の登録拒絶を免れて登録できたものであるから、原状回復の範囲に含まれると主張した。また、生ゴミ処理装置事件最高裁判決(最三小判平成13年6月12日民集55巻4号793頁)の趣旨を援用した。 【判旨】 知的財産高等裁判所第1部(高部眞規子裁判長)は、控訴を棄却し、当審追加請求も棄却した。 原状回復請求について、裁判所は、商標権1ないし3は被控訴人自身による商標登録出願と設定登録により発生した被控訴人独自の権利であり、本件事業から発生した権利とはいえないと判断した。被控訴人は解除により控訴人を契約締結前の原状に復させる義務を負うにとどまるところ、控訴人は契約締結前に商標権1ないし3を有していたわけでも、その出願により生じた権利を有していたわけでもない。したがって原状回復義務の対象にはならないとした。 控訴人が主張する出所混同防止の観点についても、冒認による移転登録を認める特許法74条に類する規定が商標法には存在しない以上、実体法上の根拠なく類似商標を同一人に帰属させる目的で移転登録請求を認めることはできないと判示した。控訴人には商標権8・9がなお存在し、商標権7も再審により回復可能であり、商標登録無効審判(商標法4条1項15号違反等)による救済も残されていることから、救済手段がないとはいえないとした。 事務管理に基づく請求についても、被控訴人は解除の意思表示を受ける前に自己の名で出願したものであり、「他人のために他人の事務」を管理したとはいえないとして斥けた。 本判決は、営業譲渡契約解除後の原状回復範囲について、譲受人が自己の名で新たに取得した商標権には及ばないという原則を明確にし、商標法には冒認移転の規定がないことを踏まえ、移転登録による救済を安易に認めない立場を示した実務上意義の大きい判断である。