保険金等還付請求事件,ファックス送信費用等請求事件,保険金等還付金等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、書籍等の製作販売を目的とする会社である原告が、吹田年金事務所に対し、平成18年1月以降原告代表者の役員報酬が月額20万円から5万円に減額されていた旨の届出を約10年越しに行ったことをきっかけに生じた、社会保険料等の過納処理をめぐる紛争である。原告の届出を受けて、吹田年金事務所は原告代表者の標準報酬月額を平成18年4月に遡って改定し、歳入徴収官である厚生労働省年金局事業管理課長は、平成27年7月、保険料等を減額更正する処分を行って、原告に対し合計約267万円の過納金を還付した。しかし原告は、当該期間に対応する延滞金については減額前の保険料額を基礎に計算されたまま93万円余が残存したこと、還付に当たって還付加算金や利息が付されなかったこと、吹田年金事務所職員から未納保険料4万円の納付や納付誓約書の作成を強要されたこと、領収証書のファックス送信費用の負担を求められたこと等を違法と主張し、甲・乙・丙の3事件にわたり、国家賠償請求、不当利得返還請求、納付誓約書無効確認、延滞金再計算の義務付け等を求めた。 【争点】 主要な争点は、(1)非申請型義務付けの訴えの訴訟要件である「重大な損害」の有無、(2)納付誓約書無効確認の訴えの確認の利益、(3)保険料等の還付に還付加算金や民法704条前段の利息を付すべきか、(4)職員による納付強要や誓約書作成強要の有無、(5)遡及的に過納となった保険料等について健康保険法164条2項等の充当規定を適用すべき義務の有無、等である。特に還付加算金・利息の可否については、保険料等の還付の法的性質を公法上の不当利得と解すべきか、民法の不当利得規定を適用すべきかが正面から問われた。 【判旨】 大阪地裁は、原告の請求のうち1万3175円の利息請求のみを認容し、その余は却下又は棄却した。まず義務付けの訴えについては、原告の主張する損害が延滞金200万円相当という経済的損害にとどまり事後的な金銭賠償で回復可能であるから「重大な損害」に当たらず不適法とし、納付誓約書無効確認の訴えも、被告が誓約書に基づく支払を求めているわけではないから確認の利益を欠くとした。最大の争点である還付加算金・利息の支払義務については、国税通則法58条の適用は還付と徴収の性質の違いから否定した一方、民法所定の不当利得規定は、適法に納付・徴収された保険料等について国が保有する正当な理由を失った場合にも妥当するとし、民法703条・704条前段の適用を肯定した。そして被告は、本件旧処分を自ら行った平成27年7月22日の時点で過納金について「法律上の原因」を欠くことを認識した「悪意の受益者」に当たるとして、還付日までの約1か月分の法定利息1万3175円の支払義務を認めた。他方、職員による強要の事実は客観的証拠から認められず、ファックス送信費用は保険料納付に必要な行為とはいえないから民法485条の弁済費用に当たらず、健康保険法164条2項等は保険者の事務上の便宜のための相殺類似の特別措置を認める規定にすぎず保険者に充当義務を課すものではないとして、いずれも退けた。本判決は、社会保険料の過納還付について民法704条前段の悪意受益者利息を肯定した点に実務的意義がある。