AI概要
【事案の概要】 本件は、アメリカの栄養関連企業である原告が、「最適化された栄養処方物、それらから目的に合わせた食事を選択するための方法、およびその使用法」と題する発明について特許出願をしたところ、特許庁から拒絶査定を受け、これに対する不服審判の請求も不成立とされたため、審決の取消しを求めた事件である。 本願発明は、ファイトケミカル(植物由来の天然化合物)、ω-6脂肪酸、抗酸化剤を組み合わせた栄養処方製品に関するもので、1〜40gのω-6脂肪酸と、5mg超のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤という特定の用量範囲をまとめて包装し、消費の適合性を表示することを特徴とする。原告は国際出願後に複数回の手続補正を重ね、平成29年8月18日付けの補正において、請求項1に「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤の投薬量がまとめて提供されるよう包装され」との特定事項を導入した。 特許庁は、当該補正が、国際出願当初の翻訳文等に記載された事項の範囲を超える新規事項の追加に当たるとしてこれを却下した上、補正前の発明は引用発明(甲13・甲14)に基づき当業者が容易に想到できたものとして進歩性を否定し、審判請求を不成立とした。 【争点】 争点は、(1)補正が新規事項の追加(特許法17条の2第3項)に当たるか、(2)補正後の発明が引用発明に基づいて容易に発明できたものとして独立特許要件(進歩性)を欠くかである。原告は、ポリフェノールが抗酸化剤の一例であることや明細書の諸記載から、本件補正の技術的事項は当初明細書に実質的に記載されていたと主張し、また、本願発明は「複数の異なる供給源に由来するファイトケミカル」を用いてω-6脂肪酸とポリフェノールを含む抗酸化剤の合計量を具体的に制限するという独自の技術思想に基づくものであって、引用発明とは相違する旨を主張した。 【判旨】 知財高裁は、原告の請求を棄却した。進歩性の点について、甲13(国際公開2009/131939号)には、ω-6脂肪酸やω-3脂肪酸、ポリフェノールを含む抗酸化物質を最適量で含み、1日用量で包装する脂質含有組成物が開示されており、異なる供給源を用いて特定成分の高濃度送達を回避することも示唆されていると認定した。甲13に示されたω-6脂肪酸含有量の範囲(1〜35g)は本願の「1〜40g」とほぼ重複し、また甲14の製造例から算出される値も本願の数値範囲内にある。本願明細書には、ω-6脂肪酸を「1〜40g」、抗酸化剤を「25mg〜10g」とする数値範囲の技術的意義や臨界的意義についての具体的記載がなく、格別顕著な効果も認められない。 原告が主張する「ω-6脂肪酸とポリフェノールを含む抗酸化剤の合計量を具体的に制限する」という技術思想については、本願明細書に脂質・抗酸化剤・ビタミン・ミネラル等の栄養全体のバランスに関する記載はあるものの、これら特定2成分のみを他と切り離して固定することの技術的意義は記載されておらず、そのような技術思想に基づくものとは認められないとした。 以上より、本願補正後発明1は甲13発明に基づき当業者が容易に発明できたもので独立特許要件を欠き、補正を却下した審決の判断に誤りはないと結論付け、新規事項の点を判断するまでもなく審決取消事由は理由がないとして請求を棄却した。特許の数値限定発明について、明細書における技術的意義の記載と臨界的意義の立証がいかに重要であるかを示した事例である。