AI概要
【事案の概要】 本件は、ベトナム国籍を有する原告が、大阪入国管理局の入国審査官から、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条3号の5ロ(他人名義在留カード収受)の退去強制事由に該当する旨の認定を受け、さらに特別審理官から認定に誤りがない旨の判定を、主任審査官から退去強制令書の発付処分を受けたため、これらの各取消しを求めた事案である。 原告は、在留資格「留学」で本邦に上陸し、在留期間更新を受けて滞在していたベトナム人男性である。大阪入管の調査によれば、原告の知人Dは、学校を辞めて大阪に来ており、自己の在留カードではアルバイトに採用されないと考え、原告が勤務するCでの採用を希望していた。そこで、原告が知人Eに依頼してE名義の在留カードを借り受け、これをDに提供し、DはこのカードのコピーをCに提出してEを名乗ってアルバイトとして稼働したとされる。 違反調査の初日、原告は公用車内でのA入国警備官による説諭に応じて他人名義在留カード収受の事実を自認する供述をし、これに基づき自認調書(本件自認調書)が作成された。しかし、その後の収容令書の執行時以降、原告は一貫して容疑事実を否認した。原告は、本件認定等を受けた後、異議の申出を経て退去強制令書を発付され、ベトナムに送還されたうえで本件訴訟を追行した。 【争点】 第一に、既に本邦から退去強制されている原告について、本件認定及び本件判定の取消しを求める訴えの利益が認められるか(本案前の争点)。第二に、本件認定に事実誤認の違法があるか(本件自認調書の証拠能力・信用性、及びE供述の信用性が中心)。第三に、口頭審理における取調官の証人尋問請求を却下した点に本件判定の手続上の違法があるか。第四に、本件退去強制令書発付処分の適法性である。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも棄却した。 訴えの利益については、入管法5条1項9号ロにより退去強制を受けた外国人は退去の日から5年間本邦に上陸できないとの法律上の不利益を負うところ、認定・判定は退去強制令書発付処分の当然の前提を成すものであり、これらが取り消されれば上陸拒否を受けない法的地位を回復できるから、退去から5年を経過していない原告には取消しを求める法律上の利益が認められるとして、本案前の被告主張を斥けた。 本件自認調書の証拠能力については、仮に違反調査に憲法38条の保障が及ぶとしても、黙秘権の告知を要するか否かは立法政策の問題であり、入管法上告知義務の規定はなく、原告に供述の強制があったとも認められないから、告知がないことをもって調書が違法収集証拠に当たるとはいえないとした。そのうえで、原告が容疑事実を自認した経緯、公用車内で作成された本件メモの存在、原告自身が顔写真に「私が在留カードをかりたEです」等と自書した事実等を総合し、調書の信用性を肯定した。 E供述については、Eがあえて原告を陥れる動機が見当たらず、供述内容が具体的であり、在留カードを貸した相手が原告であるという中核部分は一貫していることから、コンビニエンスストアでの受渡し経過や同居人に関する附随的事情の変遷・不整合があっても信用性は損なわれないとした。他方、原告の関与を否定するDの供述・証言は、関与の詳細を認識していなかったとみられ、原告への罪悪感等から有利な供述をした可能性もあるとして、採用しなかった。 手続上の違法については、口頭審理における証人尋問の採否は特別審理官の合理的裁量に委ねられるところ、原告本人の弁解を踏まえて任意同行報告書や自認調書の信用性を判断することも十分可能であり、A入国警備官の尋問を実施することが明らかに必要であったとはいえないとして、裁量権の逸脱・濫用を否定した。 退去強制令書発付処分は、適法な裁決を受けた主任審査官が入管法49条6項に基づき発付すべき義務のある処分であり、本件認定・判定及び裁決が適法である以上、本件退令発付処分も適法であると結論付けた。