AI概要
【事案の概要】 原告は食品の包装フィルム製造を業とする会社であり、被告はパッケージデザインを請け負う個人事業主である。原告は平成24年頃から平成28年頃まで被告にデザイン作成業務を委託していたが、取引終了後、被告は原告が被告作成デザインを無断で改変等して著作権を侵害したとする訴訟(前訴)を提起し、平成29年11月に請求棄却の判決が確定していた。 その後、被告は平成30年3月、原告の取引先である米屋株式会社に対し、「原告が被告の著作物を無断で改変・改ざん・複製している」「取引先に被害が生じているのに原告が隠している」「原告は採用報告を怠っている」「他にも約1100点の対象商品について謝罪広告を求める」等の記載を含む書面をファックス送信した。そこで原告は、これが原告の営業上の信用を害する虚偽事実の告知に当たるとして、主位的に不正競争防止法4条、予備的に民法709条に基づき、慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の計550万円の損害賠償を求めた。 【争点】 (1) 原告と被告が不競法2条1項15号(現21号)にいう競争関係にあるか (2) 本件書面の記載が営業上の信用を害する虚偽事実の告知に当たるか (3) 被告の本件書面送付が別訴の証拠収集という正当な訴訟活動として違法性が阻却されるか (4) 原告に生じた損害額 【判旨】 裁判所は、請求を一部認容し、被告に55万円の支払を命じた。 まず、原告が社内外のデザイナーによりデザイン業務を行っており、被告もデザイン業務全般を請け負う個人事業主である以上、両者は需要者・取引者を共通にする可能性があり、競争関係にあると認めた。 次に、前訴で確定したとおり、原告が被告デザインを使用・修正することについて被告は取引当初から包括的に承諾しており、原告は現に被告へ採用報告も行っていたと認定した。したがって、無断改変を指摘する本件記載1・4、取引先に被害が生じているのに原告が隠しているとする本件記載2、採用報告を全くしていないとする本件記載3は、いずれも虚偽の事実の摘示であり、原告を違法行為を行う無責任な会社と印象づけるもので、原告の営業上の信用を害すると判断した。 被告の「別訴の証拠収集のための正当な訴訟活動」との主張については、証拠収集目的であっても顧客に虚偽事実を告知することは社会的相当性の範囲を逸脱しており違法性は阻却されないと退けた。前訴判決を受けていたのに行為に及んだ点から過失も認めた。 損害額については、原告が1件の取引先への送付のみを本訴の対象としていること、前訴判決確定後であり取引先の誤解解消は比較的容易であったこと等を総合考慮し、無形的損害50万円、弁護士費用5万円の計55万円を相当と認めた。 本判決は、前訴で著作権侵害が否定された当事者が取引先に働きかける行為について、仮に訴訟活動の延長であっても虚偽事実告知が成立すれば不正競争行為となることを明確にした事例であり、紛争の蒸し返しや顧客への働きかけに対する歯止めとして実務的意義を持つ。