AI概要
【事案の概要】 被告人は、持病であるてんかんにより過去に意識喪失を伴う発作を繰り返していたにもかかわらず、運転免許の更新時に交付された質問票の「過去5年以内に病気等で意識を失ったことがある」との項目に「いいえ」と虚偽の記載をして提出した(道路交通法違反)。さらに、平成30年2月、大阪市内の道路舗装工事現場において、てんかん発作による意識喪失のおそれがある状態で小型特殊自動車(ホイールローダー)の運転を開始したところ、走行中に実際に発作を起こして意識を失い、車両が聴覚支援学校前の歩道に向けて暴走。歩道上にいた児童3名及び教師2名に次々と衝突し、11歳の児童1名を死亡させ、他4名にも重傷を負わせた(危険運転致死傷罪、自動車運転処罰法3条2項)。検察官の求刑は懲役10年であった。 【争点】 弁護人は、被告人は発作で意識を失ったのではなく、ブレーキを踏む足が滑ったことによるパニックで運転操作を誤ったに過ぎず、成立するのは過失運転致死傷罪にとどまると主張した。したがって、事故時に被告人が「てんかんの発作により意識喪失の状態に陥っていた」と認められるか、すなわち自動車運転処罰法3条2項の危険運転致死傷罪の成否が争点となった。 【判旨(量刑)】 裁判所は、本件車両が赤信号を無視し、歩道方向に約10秒間アクセルを踏み続けたまま加速進入して被害者に衝突し、さらに踏み越えるまで何らの回避措置も採られなかったという走行状況に着目し、意識がある状態でこうした危険走行を継続することは故意がない限り考え難いと指摘した。加えて、被告人のてんかんは前頭葉に焦点があり無意識の行動や足への力みを伴うという専門医の所見、他に意識喪失を招く疾患が認められないこと等を踏まえ、事故時に被告人がてんかん発作により意識喪失状態にあったことは合理的疑いを容れる余地なく認められると判断し、弁護人の主張を斥けた。量刑においては、意識喪失の危険を軽視して運転を続けた非難の重さ、学校前という高リスク環境での発生、1名死亡・4名重傷という結果の重大性、遺族らの厳しい処罰感情を考慮しつつ、前科のないこと等を勘案し、被告人を懲役7年に処した。本判決は、てんかん等の病気影響下での運転を処罰する自動車運転処罰法3条2項の適用事例として、発作による意識喪失の立証を走行態様や医学的知見から積み上げた実務的に重要な事案である。