AI概要
【事案の概要】 本件は、大型貨物自動車を運転していた被告人が、名古屋市内の片側2車線国道の第1車両通行帯を走行中、左後方から自車左側面と縁石との間の通行余地を進行してきた被害者(当時24歳)運転のロードバイク自転車と衝突させ、被害者を路上に転倒させて右側腹壁開放創等の傷害を負わせ、多臓器不全により死亡させたとして、自動車運転過失致死罪に問われた事案である。本件道路は西側に防音壁が設置され、さらに西方に歩行者・自転車用の歩道が整備されており、車道部分に自転車が進入することは想定されていない構造であった。検察官は罰金100万円を求刑した。 【争点】 被告人に過失(注意義務違反)が認められるかが争点となった。検察官は、被告人には自車左側の通行余地を進行してくる自転車等の存在を予測し、その安全を確認してから左転把すべき注意義務があったのにこれを怠り、左側通行余地の安全確認をせずに左転把して被告人車両を左に寄せ、被害者自転車に衝突させた点で注意義務違反があると主張した。これに対し弁護人は、防音壁外側に自転車・歩行者道が設けられている道路構造上、車道部分に自転車が進入することの予見可能性はなく、被告人は第1車両通行帯の中央付近を走行しており車両を左端に寄せた事実もないと反論した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、本件道路が交通頻繁な国道で防音壁外側に歩道が整備されていることから歩行者・自転車の通行は想定されていないこと、被告人車両の左側面と縁石との通行余地は約1mにすぎず、再現実験でも自転車による安全走行が極めて困難で、現にロードバイクライダーへの聞き取りでも誰もこの条件での追い抜きを行わないと回答したことを認定した。これらの事情からすれば、被告人には、わずか約1mの隙間を左後方から自転車が進行してくることを予見してその進路を妨害しないよう留意すべき注意義務があるとはいえないと判断した。また、被告人車両を道路左端に寄せて走行させた事実自体認められず、道路がわずかに左に湾曲していることから車体が若干左右に振れることは不可避であって、走行車線内での振れをもって進路保持義務違反とすることはできないとした。衝突地点付近に残された擦過痕を根拠に被告人車両が左端に寄っていたとする鑑定人の見解も、被告人車両のタイヤ構造の誤認等から採用できないとした。以上により被告人に結果回避義務違反はなく過失は認められないとして、刑事訴訟法336条により無罪を言い渡した。本判決は、道路構造上自転車の通行が想定されていない車道部分での自転車との衝突事故につき、大型貨物自動車運転者の予見可能性・結果回避義務の範囲を限定的に解した点に実務的意義がある。