AI概要
【事案の概要】 本件は、「豆乳発酵飲料及びその製造方法」に係る特許第5622879号(請求項10個、原告保有)について、被告が無効審判を請求し、特許庁が請求項1ないし9に係る発明を進歩性欠如により無効とする審決をしたため、原告が審決のうち当該部分の取消しを求めた審決取消訴訟である。本件特許発明は、pHを4.5未満、7℃における粘度を5.4から9.0mPa・sとし、ペクチン及び大豆多糖類を併用してペクチンの添加量を両者合計の20から60質量パーセントに規定した豆乳発酵飲料及びその製造方法を内容とし、タンパク質成分等の凝集抑制を目的とするものであった。特許庁は、引用例1(分散剤として水溶性大豆多糖類と糊料ハイメトキシルペクチンを含有しpH2.5から5.0の酸性蛋白食品に関する公開特許公報)、引用例2(発酵豆乳入り清涼飲料に関する月刊誌論文)、引用例3(水溶性大豆多糖類を含みpH4.1ないし4.2の豆乳発酵乳酸菌飲料に関する公開特許公報)に基づく容易想到性を認めて無効審決をした。 【争点】 主たる争点は、本件各発明につき各引用発明を主引例とする進歩性判断の当否である。具体的には、pH、粘度、ペクチンと大豆多糖類の配合比率等に関する相違点を一体として一つの技術的課題に係る相違点とみるべきか個別に認定すべきかという相違点の捉え方、各相違点に係る構成を当業者が容易に想到し得たか、及び、本件明細書記載の官能評価結果から認められる酸味抑制や口当たりの滑らかさといった効果が、当業者の予測を超える異質ないし顕著な効果として進歩性を基礎付けるかが争われた。 【判旨】 知的財産高等裁判所第1部は、原告の請求を棄却した。まず、複数の相違点は、本件明細書上「タンパク質成分等の凝集抑制」以外の効果が発明全体に共通する効果として位置付けられておらず、明細書内部にも不整合があることから、一体の相違点として認定する必要はないと判断した。その上で、各引用例はいずれも酸性蛋白飲料等における蛋白質粒子の凝集・沈殿防止を課題とし、ペクチンと水溶性大豆多糖類の併用や配合比率の調整によりこれを解決する技術思想を開示していると認め、pHを4.5未満に調整すること、粘度を本件発明の範囲とすること、ペクチン添加量を20から60質量パーセントとすることは、いずれも当業者が引用発明及び技術常識に基づき容易に想到し得るとした。また、豆乳の発酵における乳酸菌の使用や特定のラクトバチラス・ブレビス株の利用は周知であり、本件明細書記載の官能評価試験についても評価基準・評価手法・統計処理の記載を欠き、進歩性を基礎付けるに足る客観性・信頼性を備えないとして、異質な効果の主張を排斥した。結論として、本件審決の判断に誤りはなく、原告の主張する取消事由はいずれも理由がないとされた。本判決は、食品・飲料分野におけるパラメータ発明について、明細書記載の効果の整合性と官能評価データの客観性を厳格に求めた事例として、進歩性判断の実務上参考となる。