AI概要
【事案の概要】 被告人は、平成29年1月に三つ子を出産した後、育児負担から次第に追い詰められ、特に二男A(当時生後11か月)の泣き声に強い苦痛を感じるようになっていた。平成30年1月11日夜、被告人方において、激しく泣き続けるAと同時に泣き始めた長女に強い苛立ちを覚え、その感情をAにぶつけようと考え、Aの身体を両手で仰向けに持ち上げ、畳の上に2回たたきつける暴行を加えた。Aは頭蓋冠骨折、びまん性脳損傷等の傷害を負い、同月26日に搬送先の病院で死亡した。起訴された罪名は傷害致死であり、公判では被告人が産後うつ病の影響下にあったことを理由に、心神耗弱の成否と量刑が主たる問題となった。 【争点】 弁護人は、犯行当時、被告人は産後うつ病の影響により是非善悪を判断し、行動をコントロールする能力が著しく低下していた(心神耗弱)と主張した。この点に関し、捜査段階でのB鑑定は、被告人がうつ病にり患していたものの、犯行への影響は限定的であるとしたのに対し、起訴後のC鑑定は、産後重症うつ病の攻撃衝動により犯行に及んだもので、精神障害が犯行に著しい影響を与えたとした。両鑑定のいずれを採用すべきか、被告人の責任能力の程度が争われた。 【判旨(量刑)】 裁判所は、B鑑定について、専門的知見と豊富な経験に基づき、複数回の面接や心理検査等を含む一般的手法によって行われ結論も合理的であるとして信用性を肯定した。他方、C鑑定は、心理検査を欠き、関係者面接も不十分で、被告人の供述の検討・評価も足りず、産後うつを前提に結論を導く循環的論理であるとして採用しなかった。そのうえで、犯行動機は一般人にも了解可能で、犯行態様は動機に沿った合理的・合目的的なものであること、被告人は約30分間自らを叩いて苛立ちを抑えようと試み、寝ていた被害者をあえて畳のある部屋に移動させたうえで加害し、気が収まるとそれ以上の危害を加えなかったこと、4日前の類似行為後に「頭部外傷」「虐待」「懲役」等を検索し、犯行後に救急隊員に虚偽説明をしていることなどから、行為の意味や違法性を認識し、行動を一定程度コントロールしていたと認定し、完全責任能力を肯定した。量刑については、無抵抗の生後11か月の乳児を強い力で2回畳にたたきつけた危険性の高い悪質な態様を重くみる一方、動機形成にうつ病が一定程度影響していること、三つ子の育児を懸命に行っていた経緯には同情すべき点があること、前科前歴なし、自ら119番通報し救命措置を講じたこと、反省の態度、父による監督の誓約等を考慮し、執行猶予を付するほど軽い事案ではないとして、求刑懲役6年に対し懲役3年6月(未決勾留140日算入)を言い渡した。