手続却下処分取消請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 イタリアに住所を有する在外法人である控訴人は、日本国内で特許出願(本件特許出願)をし、特許法8条に基づく特許管理人として国内のA国際特許事務所所属の弁理士を選任していた。控訴人の現地代理人(本件現地事務所)は、出願審査請求期間の満了約1か月前に、本件国内事務所に対し出願審査請求を指示する電子メールを送信した。しかし、本件国内事務所はサーバーがランサムウェアに感染していた影響などから当該メールを受信できず、出願審査の請求がされないまま期間が経過し、本件特許出願は特許法48条の3第4項により取り下げられたものとみなされた。 控訴人は、期間内に出願審査の請求ができなかったことにつき同条5項所定の「正当な理由」があるとして、事後的に出願審査請求書を提出したが、特許庁長官は本件手続を却下する処分をした。控訴人は同処分の取消しを求めて出訴し、東京地裁が請求を棄却したため、知財高裁に控訴した。 【争点】 特許法48条の3第5項の「正当な理由」の有無、具体的には、在外者である出願人・現地代理人の対応と、国内の特許管理人(弁理士)の対応を区別して評価すべきか、また、本件国内事務所のランサムウェア感染という特殊事情が出願人側の免責事由となるかが争われた。控訴人は、同項が特許法条約(PLT)の採択を受けて「Due Care(相当な注意)」基準を採用したもので、要件は柔軟かつ緩やかに判断されるべきであり、予測困難な国内事務所側の事情により期間が徒過した本件では「正当な理由」があると主張した。 【判旨】 知財高裁は、原判決を維持して控訴を棄却した。 まず、特許管理人も出願人の代理人である以上(特許法8条)、「正当な理由」の判断において、国内事務所と現地事務所・出願人本人とを区別する理由はなく、代理人の事情は本人の注意を判断する際にも考慮されるとした。 その上で、電子メールは相手方への到達が保証されず、送信者側で到達確認が困難な連絡手段であることは周知であるところ、本件では、特許権の得喪に関わる出願審査請求という重大な手続について、本件現地事務所と本件国内事務所との間で指示メール送信後に到達確認をする運用がとられておらず、期間徒過を防止する措置が何ら講じられていなかったと認定した。また、ランサムウェア感染によりメール送受信が不能であった期間は約1週間にとどまり、その後請求期間満了まで1か月弱の猶予があったから、本件国内事務所としても受信できなかったメールの存在を疑い控訴人側に確認する対応が求められ、本件現地事務所としても受信確認や処理完了報告を求める運用を採用していれば容易に期間徒過を回避できたとした。 以上から、控訴人側が相当な注意を尽くしていたとは認められず、特許法48条の3第5項の「正当な理由」は存在せず、本件却下処分に違法はないと結論づけた。本判決は、平成23年改正で導入された「正当な理由」要件が、PLTに由来する「Due Care」基準を採用し従前より緩和されたとはいえ、代理人の過失も本人の過失と同視される原則が維持され、電子メールのみに依拠した期限管理には到達確認等の追加措置が要求されることを明らかにしたものとして、国際出願実務上重要な意義を有する。