AI概要
【事案の概要】 本件は、建築物の布基礎と土台との間に介在させる「台輪」に関する特許(特許第3870019号)について、原告(吉川化成株式会社)が被告ら(ミサワホーム株式会社・城東テクノ株式会社)を相手に特許無効審判を請求したところ、特許庁が請求不成立の審決をしたため、原告が同審決の取消しを求めた審決取消訴訟である。本件特許に係る発明は、布基礎の長手方向に沿って複数隣接して配置される台輪であって、換気孔、アンカーボルト挿通用の長孔、及び台輪本体の下面縁部と側面縁部との間に設けられたテーパ部を備える点に特徴がある。原告は、甲1(実開昭59-181103号)を主引用例として、甲2ないし18記載の技術と組み合わせれば当業者が容易に想到し得た発明であり進歩性を欠くこと、並びに請求項にいう「テーパ部」の外延が不明確で明確性要件(特許法36条6項2号)に違反することを無効理由として主張した。 【争点】 主たる争点は、①甲1発明と本件発明1との相違点(相違点1:複数隣接配置、相違点2:台輪本体を貫通する換気孔、相違点3:下面縁部と側面縁部との間に延在方向に沿って設けられたテーパ部)について、当業者が容易に想到し得たか否か、②請求項1の「テーパ部」の記載が明確性要件に適合するか、の2点である。甲1発明は間隔を空けて複数配置することで台座間に通気孔を形成する構成であるのに対し、本件発明は隣接配置した上で台輪本体自体に換気孔を設ける構成であるため、両者の技術思想の相違が進歩性判断の要となった。 【判旨】 知財高裁第4部は、原告の請求を棄却した。相違点1について、甲1発明は台座間に通気孔を形成するため間隔を空ける構成を前提とするのに対し、本件発明は隣接配置を前提として台輪自体に換気孔を形成するものであり、両者は技術思想を異にするから、甲2等記載の周知技術を組み合わせる動機付けを欠くと判断した。相違点2についても、甲1発明は台座間隔そのものを通気孔とする構成であって、これに加えて台輪本体に貫通換気孔を設ける必要性も動機付けもないとした。相違点3のテーパ部については、面取りが周知技術であり甲16・17にも下面両縁部の斜面構成が開示されているものの、甲1発明には基盤1の稜線との干渉回避や怪我防止といった課題の記載も示唆もなく、むしろ側壁の突部と凹部を係合させる構造上、その一部を削って斜面を設けることは考え難いとして、動機付けを否定した。明確性要件についても、請求項及び明細書の記載からテーパ部の形状・位置・機能を明確に把握できるとして、傾斜の程度は凸部との干渉回避の観点から当業者が適宜選択できる事項であると判示した。本件は、周知技術の存在のみでは主引用発明の技術思想と整合しない構成への適用動機付けを基礎付けられないことを示した事例として、進歩性判断における「論理付け」の重要性を改めて示すものである。