AI概要
【事案の概要】 本件は、在外者である原告(英国法人)が、自社の特許出願(分割出願)について特許庁から拒絶査定を受けた後、法定期間内に拒絶査定不服審判の請求をしなかったことを理由に審判請求を却下された審決の取消しを求めた事案である。本願は、平成18年4月の原出願から順次分割を重ねた出願であり、平成18年改正法附則3条1項により改正前特許法44条1項が適用される関係にあった。そのため、本願から更に分割出願を行うには、拒絶査定不服審判請求と同時にしなければならなかった。ところが、原告の代理人弁理士は、現行特許法44条1項3号が適用されるものと誤信し、拒絶査定謄本送達から4か月以内に分割出願(本件分割出願1)はしたものの、同時にすべき審判請求を怠った。原告はその後、期間経過後に改めて審判請求と別の分割出願を行ったが、特許庁は、特許法121条2項にいう「その責めに帰することができない理由」がないとして審判請求を却下した。 【争点】 特許法121条2項の「その責めに帰することができない理由」の意義と、本件代理人らの法令適用の誤認がこれに該当するか否かが争点となった。原告は、特許法1条の法目的、平成18年改正法による分割可能期間の拡大、特許法条約(PLT)加入による国際的な発明保護の要請、さらに本件審判請求が分割の機会を得るための便宜的・非本質的手続にすぎないことなどを理由に、同項を柔軟かつ広く解釈すべきと主張した。 【判旨】 裁判所は請求を棄却した。同項にいう「その責めに帰することができない理由」とは、天災地変等の客観的事由のほか、通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けられなかった事由をいい、代理人が通常期待される活動をしていれば避けられた過誤を含むように広く解釈することはできないとした。特許法1条はもとより、平成18年改正法等による分割制度の変遷もPLT加入も、同項を柔軟に解すべき根拠とはならず、分割機会確保のための便宜的手続か否かは第三者から判然としないから、解釈を左右しないとした。そして、弁理士法3条により弁理士には業務関連法令に精通する義務があり、本件代理人らが通常期待される法令調査を行えば、分割出願と審判請求とを同時にすべきことは十分認識可能であったとして、代理人らの過誤は通常の注意を怠った結果であると認定した。出願人が代理人選任を自らの経営判断で行った以上、本人に落ち度がなくても、代理人に帰責事由がある場合は同項の救済を受けられないとする最高裁昭和33年9月30日判決の法理を援用し、原告の救済を否定した。代理人弁理士の人為的錯誤は特許法121条2項の救済対象外であることを明確にし、実務上期間管理と制度適用の確認責任が代理人に厳格に課されることを示した判断として意義を有する。