AI概要
【事案の概要】 被告人はアスペルガー症候群を抱え、実母である被害者(当時61歳)及び実父と同居していた。被害者から生活態度について叱責を受け続けストレスを蓄積させていたところ、平成30年6月23日、部屋の片付けができていないことを叱責され、さらに両親が被告人に関して口論を始めたことから、被害者への怒りを増大させて殺意を形成した。被告人は、同日午後4時頃、札幌市内の自宅において、被害者の左背部を刃体の長さ約12.9センチメートルの包丁で1回突き刺し、全治約4週間を要する背部刺創、左肺裂傷等の傷害を負わせたが、殺害の目的を遂げず未遂に終わった。検察官の求刑は懲役4年であった。 【判旨(量刑)】 札幌地裁は、被告人を懲役3年に処し、5年間その刑の執行を猶予した。裁判所は、犯行態様について、かなり強い力で背中を刺し、刃が刃体の長さより深く突き刺さって左肩甲骨を骨折させ肺を傷つけるなど重傷を負わせており、刺した部位・深さからすれば即死の可能性もあったとして、被害者の生命を奪う危険が高く、相当強い殺意に基づく悪質な犯行であると評価した。他方、被告人が被害者に対するストレスを蓄積させ本件当日に殺害を決意したことには、被告人の抱える精神障害の影響があったと認められ、また、被害者が被告人の障害に適切な配慮をせずに叱責を続けたことが犯行の引き金になったといえるとして、これらの事情は刑を定めるに当たり相当程度考慮すべきとした。その上で、被告人の責任は同種事案の中で重いものとまではいえず、これまでの量刑傾向を踏まえると社会内での更生も考えられるとした。さらに、被告人が事実を認めて深く反省していること、実父が障害を理解しようと努め被害者と直接関わらないよう監督する旨約束していること、前科前歴がなく本件に至るまで概ね適切に社会生活を送っていたことなどを考慮し、社会内での更生が十分に期待できると判断して、執行猶予付きの判決を言い渡した。発達障害を抱える家族内での悲劇的事件において、精神障害の影響と被害者側の対応不足を量刑上酌量し、家族による監督体制を重視して社会内処遇を選択した事例として実務的意義を有する。