AI概要
【事案の概要】 本件は、まつ毛エクステンション施術を指定役務として「ゼフィールアイラッシュ」の商標権(平成28年11月11日登録)を有する原告(ネイルサロン等経営会社)が、被告(まつ毛エクステンションサロン運営会社)に対し、被告が同一または類似の標章を店舗名やウェブサイト上で使用する行為は商標権侵害に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償915万2000円等の支払を求めた事案である。被告代表者の夫P2は、平成23年ころから「ゼフィール(そよ風)」と「アイラッシュ(まつ毛)」を組み合わせた造語を考案し、訴外エール等の店舗名として使用していた。原告と訴外エールは平成26年以降、ネイルとまつ毛エクステンションの施術を同一店舗内で提供する業務提携を行い、平成27年1月からは計7店舗に範囲を拡大したが、平成28年6月ころ業務提携を解消し、被告が訴外エールの事業を承継した。原告は業務提携解消の申入れを受けた直後の平成28年4月25日、訴外エールに説明することなく本件商標を出願した。 【争点】 争点は、(1)被告による被告標章の使用の有無、(2)商標法32条1項の先使用権の成否、(3)本件商標権行使が権利濫用に当たるか、(4)損害額である。被告は、訴外エールが平成23年ころから被告標章を使用し周知性を獲得していた旨主張し、原告は平成27年1月以降訴外エールを実質的に吸収合併しており被告標章の使用主体は原告であった旨主張した。 【判旨】 大阪地裁は、事案の性質上まず権利濫用の抗弁から判断した。まず原告主張の吸収合併については、合併契約書等の文書がなく登記上も変更がないこと、訴外エール従業員は原告のネイル業務に関与せず売上は別途管理されていたこと、訴外エール従業員の多くが国民健康保険のままで訴外エール名義で給与を受領していたこと、P2に支払われた月約65万円は税務上広告費として処理されており合併対価と解し得ないことなどから、吸収合併の事実を否定し、両社は独立性を保ったまま経理統合等を図ったにすぎないと認定した。その上で、被告標章1を店舗名として使用した主体はあくまで訴外エールであり、原告自身は「サンミーゴアイラッシュ」等を使用したものの本件商標を使用した事実はないと認定した。裁判所は、業務提携解消の申入れを受けた後に原告が訴外エールに説明なく商標出願を行った点を指摘し、特段の協議も合意もないのに原告が単独で出願した一事をもって訴外エールの従前の標章使用権限を奪うことは予定されていなかったと判断した。さらに被告が業務提携解消後も公然と被告標章を使用し続けていたにもかかわらず、原告が平成28年12月までこれに異議を述べなかった経緯も踏まえ、原告による本件商標権の行使は権利の濫用に当たり許されないとして、その余の争点を判断するまでもなく請求を棄却した。本判決は、業務提携関係を経て生まれた標章の帰属をめぐる紛争において、実際の使用実態と出願の経緯を重視して商標権の行使を制限した事例として、権利濫用法理の運用に関する実務的意義を有する。